次期日銀総裁をめぐる与野党の不毛な議論−民主党の終わりの始まり

 福井日銀総裁の任期切れを控えて、次期総裁をめぐる国会での与野党対立が激化している。このまま対立が続けば、時間切れとなり日銀総裁が空席になる恐れが高まってきている。
 一方サブプライムローン問題に端を発した金融危機は日を追う毎に深刻なものになっている。これについては昨年8月のエントリーでサブプライムローン問題について触れ、アメリカがリセッションする可能性が高いのでは、と述べた。

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 その時の悪い予測があたってしまった。デリバティブによって膨らんだバブルがただひたすら壊れていくばかりである。FRBを初めとする各国中央銀行の大胆な介入も、短期的なカンフル剤としての役目しか果たしておらず、最近はその効き目もきわめて短期しかもたなくなってきている。
 そもそも事の本質は、ローンを組んで家を買い、その家を担保にして高級な自動車や家具を買い、贅沢三昧することによって膨らんできた世界のバブルが逆回転を始めていることにある。経済活動が人間心理の上に成立しているものである以上、いかなる手立てをとったとしても、もはやその逆回転を留めることはできるはずがない。一時的なあや戻しはあろうとも、相当長期にわたって消費は低迷していくだろう。しかも過剰なマネーサプライは確実に貨幣の価値を低下させ、インフレをもたらすことにもなるだろう。ここ数十年でも最悪の金融危機だととらえるべきだ。

 そうした現状認識に立てば、日本の中央銀行である日銀総裁が空席になることは絶対に避けなければならない。総裁が空席になることの重大性を鑑みれば、政府の出す総裁候補に多少不適格な部分があったとしても、その不適格さには一定目をつぶって政府の提案を受け入れるか、より適任の人物を候補として提示するのが、野党として当然とるべき対応であろう。空席が続くことに比べれば、とにかく総裁がいてくれるほうが何倍も、何十倍もましに決まっている。そんなことは、冷静に考えれば誰でも当然わかることだ。
 
 しかし民主党はそうした行動を取ろうとしない。ただ感情的に与党の提案に反対しているだけだ。反対についての理由を述べているが、それらは理屈に過ぎず合理的な主張ではまったくない。
 今の民主党を支配しているのは未熟な防衛に基づく集団心理だ。党内の意見の不一致が表面化することへの恐れから、自分たちの内部にある矛盾を否認し、外部である自民党に自己の矛盾を投影してひたすらに責め立てることで、自己の矛盾の直視を回避している。こういう状況下では、党内の矛盾を克服していくために必要な合理的な議論が不可能になる。そして政権担当に必要な政党としての能力は、さらに失われていくだろう。

 今回、民主党が主張を押し通したとしても、その結果党内の矛盾は深まるはずだ。それに対してなおも否認の心理が働きつづければ矛盾はさらに拡大し、解決困難となった自己の矛盾を否認するべく、自民党をひたすらに攻撃するほかなくなっていく。そうした原始的な情動的布置が、民主党を支配することになるだろう。そんな民主党にだれが投票するというのか?いまのままではいずれ民主党は自壊する。