マートン・ギル著『転移分析』

 マートン・ギルの主著『Analysis of Transference』の第一部の邦訳。彼の考える転移分析の姿とその理論的根拠を述べた一冊である。いずれ刊行される予定の第二部では臨床事例が集められており、理論と臨床との連結がなされる。

 約200ページある一冊だが、この本での彼の主張は概略次のようにまとめられる。

 現在、一般に行われている精神分析の技法は良くないものだ。分析家たちは、治療者との関係性を理解しようとせず、孤立した患者の病理を理解することに専心している。
 私は、転移分析が重要だと考えている。そして転移分析を十分に行うために、中立的で冷たい分析家ではなく、もっと自由な交流を患者と持つことが大切だ。治療者と患者の自由な対人交流の中で、here-and-nowの転移分析を行い、それとの関連を確認しながらより発生論的な解釈を行っていく。それが大切なのだ。

 この主張を、さまざまな角度から繰り返し繰り返し論じているのがこの本だ。その中でも、転移分析を重視していない古典的な分析治療の問題を指摘し、さらに転移に着目してはいてもhere-and-nowの交流と関連づけて理解しないKlein派の治療の欠点を論じるなど、既存の治療を批判することにかなりのページを割いているため、全体の分量はそれなりにあるが、中核の主張内容はそんなに複雑なことではない。
 彼のこの中心の主張は、確かに納得できるものだ。しかし現代の読者からすれば、どうしてこのシンプルなことを、これだけくだくだと述べねばならないのか、不思議な気がする。多分、そうせざるをえないほど、当時の精神分析が硬直化していたということなのだろう。

転移分析―理論と技法
転移分析―理論と技法Merton M. Gill 神田橋 條治 溝口 純二

金剛出版 2006-05
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