2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

原田憲一先生による記述現象学の評価

続けて、記述的精神医学関連の文献を読む。原田憲一『精神症状の把握と理解』、中山書店刊。2008年。この中に、ヤスパースの仕事についての積極的な評価の一節があったので引いておく。 しかし思うに、記述現象学が精神症状の抽出、概念化に重要な貢献をした…

ヤスパースの言う「記述」とは

「記述的精神医学」を理解する必要がでてきて、まずはヤスパースの『精神病理学原論』をチェック。1913年刊。みすず書房の西丸四方訳で確認する。本書の前半で、ヤスパースの基本的考えが説明されているので、そこを簡単にまとめておく。 脳と精神とのはたら…

自己意識の生起と視覚のかかわり

イーフ−・トゥアン『個人空間の誕生―食卓・家屋・劇場・世界』せりか書房。1993年。原題は、Segmented Worlds and Self. 1982. University of Minnesota Press. もとはプライバシーはあまり意識されない社会があった。しかし空間が分節化され、個人空間が生…

あまりにもくだらない旅行記

『東京するめクラブ 地球のはぐれ方』を読んだ。村上春樹、吉本由美、都築響一の三人が「ちょっと変な場所」を選び、そこを訪れて書いた旅行記集。2004年、文藝春秋。 三人が訪問した場所は、名古屋、熱海、ハワイ、江ノ島、サハリン、そして清里。非常に絶…

Therapeutic actionの要素について

G.O.GabbardとD.Westenの共著論文『Rethinking therapeutic action』 Int. J. Psycho-Anal.,84:823-841.に目を通す。 精神分析的心理療法において、治療的効果をもたらす介入は何なのか。解釈なのか、治療関係なのか、あるいは他の要素なのか。この問題につ…

「黒塚」と恥の感情

もう少し見られることの恥ずかしさについて考えるために、謡曲『黒塚』を読む。新編日本古典文学全集 (58) 謡曲集 (1)(1997年、小学館)から。 物語はこうだ。阿闍梨祐慶(ワキ)が、同行の山伏(ワキツレ)と宿を借りる。その女主人(シテ)は「夜寒だから…

ガンバの冒険と勇気について

斎藤惇夫『冒険者たち―ガンバと15ひきの仲間』を読んだ。1972年。今回読んだのは岩波少年文庫版。 小学生の僕がよく見たテレビ番組に、『ガンバの冒険』がある。いまでも記憶の中に残っているのは、ラテン系のはじけるようなテーマソングにのって活躍するネ…

守秘義務について語るクリストファー・ボラス

さらにプライバシーについて考えるために、The New Informants: Betrayal of Confidentiality in Psychoanalysis and Psychotherapyを読む。95年、Jason Aronson刊。独立派の分析家クリストファー・ボラスと、精神分析に造詣の深い法律家Sundelsonの共著本。…

サルの笑いについて

サルの情動について理解したいと思い、京都大学霊長類研究所編『新しい霊長類学』を読んでみた。講談社から2009年に刊行された、ブルーバックスの一冊。霊長類学の最新の知見がわかりやすくまとめられていて、とても読みやすく面白い本だった。 なかでも正高…

春画における「隠す」と「見せる」

「見せる」「見られる」の違いについて考えるために、田中優子著『春画のからくり』を読む。2009年、ちくま文庫。 著者によれば、春画は「隠す」と「見せる」の相克の中で発展してきたのだという。まず江戸初期の春画は、基本的に性交を「見せる」ために描か…

オグデンのプライバシー論

オグデン著『もの想いと解釈―人間的な何かを感じとること』(2006)から「プライバシー、もの想い、そして分析技法」を読む。原書はReverie and Interpretation: Sensing Something Human.(1997, Jason Aronson)。 この論文でオグデンは、人が感情や思考を真に…

ヒポクラテスの「誓い」

プライバシーと、それを守るために必要な守秘義務confidentialityについて理解を深めるため、もう少し書物を渉猟する。ヒポクラテス『古い医術について 他8篇 』。1963年、岩波文庫。 この書には、対象をていねいに観察し、その背後で動いている原理を概念を…

プライバシーとまなざし

阪本俊生著『プライバシーのドラマトゥルギー―フィクション・秘密・個人の神話』。世界思想社。1999年刊。著者は社会学者。プライバシー侵害における「まなざし」について、多面的に論じた著作。ここでは二つだけ引用。 まずヴェレッキーの主張から。 プライ…

「プライバシー」に関する概論

仲正昌樹著『「プライバシー」の哲学』。2007年。ソフトバンク新書。 プライバシーという概念に関する歴史的考察を軸にして、その議論の展開をコンパクトに、しかし濃密にまとめた一冊。この著者ならではの力量がいかんなく発揮されていて、プライバシーにつ…

情動についての入門書

ディラン・エヴァンズ著『感情』。岩波書店、2005年刊。原題はEmotion。2001年刊。Oxford University Pressから刊行されているVery short Introductionシリーズの一冊。著者はイギリスの感情心理学者。 人間の情動に関する近年の知見を、多面的にわかりやす…