2009-01-01から1年間の記事一覧

今年、印象にのこった三冊

10月以降はほとんど更新しないまま、はや大晦日。このブログを読んでくれている知人から、「体調でも悪いのか」とのメールが送られてきたりもしました。更新しなかった理由はいろいろあるのだけれど、とにかく元気にはしています。「お久しぶり」の便りにか…

祝 『精神医学の基本問題』復刊

先日、内村祐之著『精神医学の基本問題』が絶版となっていることを憤る記事を書いた。 ところが、なんと最近になって復刊されたようだ。おお、すばらしい。創造出版のクリーンヒットだ。 しかも解説を臺弘先生がお書きになっているという。これまたすばらし…

メスメルの桶のカラー写真

有名なメスメルの桶(バケ−)のカラー写真を見つけた。現存する唯一の桶とのことである。せっかくなので、紹介しておく。 写真はこれです。 うわー、すごい迫力だ。 なお、引用元のサイトはこちら。 メスメルは、この桶を使ってどのように治療していたのだろ…

ベアー、コノーズ、パラディーソ著『神経科学−脳の探求』を読む

連続講義のために、教科書的な本をいろいろとあさっている中で良書を見つけた。 ベアー、コノーズ、パラディーソ著『神経科学―脳の探求』。邦訳は西村書店から2007年に刊行。原著第3版をテキストにしている。訳者は加藤宏司、後藤薫、藤井聡、山崎良彦といっ…

オウィディウス著『恋愛指南』を読む

私が指導で関わりを持っている研修医Y君は、彼女募集中である。仕事も勉強も熱心に取り組む好青年なのだが、まじめでひっこみ思案な性格が徒になって、なかなか良い女性と出会えないようだ。 本人も気にしているようで、「どうしたら彼女できるでしょうね、…

プラトン著『パイドン』を読む

プラトン著、『パイドン』を読んだ。岩田靖夫氏の訳になる、1998年の岩波文庫版で。 死刑直前に、ソクラテスが弟子達とかわした「魂の不死」についての対話を描いた本。 ソクラテスが、シミアスと対話する中で重要なことを語っている。 本当に哲学にたずさわ…

ロスタン著『シラノ・ド・ベルジュラック』を読む

光文社古典新訳文庫におさめられている、渡辺守章氏の訳でシラノ・ド・ベルジュラック を読んだ。 原書は1897年刊。この新訳は2008年刊。 文句なしの一冊だ。 大きな鼻をもった醜い容貌の主人公、シラノ。 シラノは自分の大きな鼻ゆえに、強い劣等感を持って…

「晶文社が文芸部門閉鎖」というニュースを知って

いつも愛読している「海難記」というブログで知ったニュース。植草甚一さんの本と「サイのマーク」で知られた晶文社が、どうやら「学校案内」などの本の発行に特化して、文芸部門を閉鎖するらしい。そして一般書、文芸書は在庫売り切りで終わり、なのだとい…

そして神戸の精神神経学会(2)

精神神経学会の二日目。昨日のようにくだらないネタをいれる時間がないので、ざっとまじめな感想だけを。 国際シンポジウム『The Hoped Horizon of Psychiatry』 午前中は、昨日からの流れで、国際シンポジウム『The Hoped Horizon of Psychiatry』に参加し…

そして神戸の精神神経学会

現在、神戸で開催されている精神神経学会に参加中。会期は三日間だが、都合で今日と明日のみの参加。 ここで敢えて告白しておく。僕の好きな音楽のジャンルは、ムード歌謡である。そしてカラオケの十八番は「敏いとうとハッピー&ブルー」の『よせばいいのに…

盆の本

10月からある大学で、「臨床精神医学」というタイトルの連続講義をする予定があり、最近はその準備にかかりっきりです。「臨床精神医学」というタイトルではあるのですが、力動精神医学の全体像をおおまかにつかんでもらうことを目的にしています。このレク…

パブロフの犬の恐怖

僕は携帯電話が嫌いだ。 だから基本的に病院から貸与される業務用の電話しか持っていない。 なぜ携帯電話が嫌いか。これは、多分医師の皆さんなら同じだろうと推測するが、病院からの呼び出し電話の受信を繰り返しているうちに、嫌いになったのである。 夜、…

バターフィールド著『近代科学の誕生』を読む。

バターフィールド著『近代科学の誕生』。1957年刊。訳本は1978年に講談社学術文庫から、上下2冊で出版された。 この本を読んだ理由は、メスメルの動物磁気が登場した時代背景を確認したかったから。 科学革命における重要な人物とその発見について、歴史的…

クロード・ベルナール著『実験医学序説』を読む

クロード・ベルナール著『実験医学序説』を読んだ。三浦岱栄先生翻訳の岩波文庫版を手に取る。原書は1865年刊。訳本は1938年刊だが、1970年に改訳版が刊行されている。 ところでこの本、これが実にすばらしいのだ。科学的な方法論への信頼を基礎にして、実験…

谷崎潤一郎著『夢の浮橋』を読む

谷崎潤一郎著『夢の浮橋』。1959年刊。 主人公、糺(ただす)の母親への近親姦願望を扱った、谷崎晩年の一作。 ともかく、大変けったいな小説である。 この小説の主人公、糺くんは、自分が抱えている問題について悩むこともなければ、主体的に解消しようとも…

陸軍面接官に土居健郎先生が述べた危険な発言

昨日の日本経済新聞の夕刊に、土居健郎先生についての「追想録」が掲載されていた。日経の特別編集委員の方が執筆された、『「甘え」の構造』の紹介を軸にした記事である。 ここに先生の最後の日々の様子が紹介されている。 亡くなる半月前まで、東京・世田…

小熊英二著『1968(上)若者たちの叛乱とその背景』を読む

名著『〈民主〉と〈愛国〉』の小熊英二さんの新刊ということで、知るなり購入した。上巻1092頁、下巻1008頁の巨大な著作である。ただ、まだ上巻だけしか出版されておらず、下巻は7月末に刊行予定となっている。出版は新曜社から。 個人的には、村上…

緩和ケア病棟の天井について

本日の夜は、緩和ケアチームの定例カンファレンスがあった。 ある患者さんが呟いた「病院で天井ばかり見て過ごすのがつらいから、家に帰りたい」という発言が報告されるのを聴いて、「そういや、天井のことってあまり考えてこなかったな」と気がついた。 中…

土居健郎先生の訃報に接して

土居健郎先生の訃報に接して、悲しみや寂しさ、それ以外にもさまざまな感情が一気に湧いてきて、それを正確に表現しようと試みたのだけれど、どんなに言葉を費やしてもうまく書き記すことができない。断片的な思いだけれど、とにかく試みに綴っておく。 僕は…

仲正昌樹著『今こそアーレントを読み直す』を読む

書店で仲正氏の新刊を目にしたので、購入。タイトルは『今こそアーレントを読み直す』。2009年5月刊の講談社現代新書。 ハンナ・アーレントの思考の主題を四つ抽出し、それらの問題が現代に生きる者にとっていかに切実かをうまく示しながら、アーレント…

ダニエル・デフォー著、吉田健一訳『ロビンソン漂流記』を読む。

『ガリヴァー旅行記』からのつながりで、『ロビンソン漂流記』を読んだ。1719年刊。訳本は新潮文庫の、流麗な吉田健一訳を選択。 この主人公、ロビンソン・クルーソーは、お気楽なガリヴァーとはうってかわって、まじめ一徹である。彼は無人島での単独生…

スウィフト著『ガリヴァー旅行記』を読む

近代へと社会が歩みを進める中で、人がどのような体験をしていたのか知りたくて、この本を読む。 スウィフト著、『ガリヴァー旅行記』。原書は1726年イギリスで出版。翻訳は今回、岩波の平井正穂訳を選ぶ。 童話化された物語として知られているこの本。…

ゲームと犯罪との関係について

「暴力ゲームをやっていると、犯罪者になる」。 そんな短絡的な因果関係で語られることの多い、ゲームと犯罪の問題。思春期の心理に関する一般の方向けのレクチャーを行うと、この問題について時に訊ねられることがある。多くは、ゲームに対して不安視してい…

岡田暁生著、『西洋音楽史』を読む

名著の誉れ高い、岡田暁生著『西洋音楽史』をようやく手に取った。2005年刊の中公新書。 たしかに噂に違わぬ傑作だ。非常に面白い。音楽がつくられる場と、聴かれる場との相互関係の中から、次なる展開をうながすモーメントが生まれ、それが音楽に変化をもた…

 武田百合子著、『富士日記』(上)を読む。

『富士日記』。武田百合子が、富士裾野にある山荘で、夫、泰淳と娘と過ごした日々を書き綴った日記。上巻は、昭和39年から41年まで。 なにか特別な事件が起こるわけではない。淡々とした日常が流れていくだけである。その日常のひとつひとつの出来事を、…

グロデック著、野間俊一編訳著『エスとの対話』

『エスとの対話』を読んだ。これはグロデックの論文のアンソロジーである。ただ野間先生のかなり丁寧な解説が添えられているので、野間先生の著作といったほうがよい構成となっている。 この本を読むと、グロデックが精神分析、心身医学に与えた影響がよく理…

越智道雄、町山智浩著『オバマ・ショック』を読む

これは拾い物の一冊。といったら著者に失礼かな。でも、面白かった。 タイトルは『オバマ・ショック』だが、先日の大統領選挙前後のできごとだけをまとめた本ではない。もっと射程は長く、オバマ大統領誕生にいたるまでの米国近現代の政治史をコンパクトにま…

中根千枝著『タテ社会の人間関係』を読む

組織論がらみで、中根千枝著『タテ社会の人間関係』を再読。 いまや古典となっている、日本社会論の傑作である。 刊行後41年を経過してもなお基本的な理論の骨格は全く陳腐化しておらず、いまなお古典としての命は衰えることはない。せっかくなので前半だ…

組織論をまだ学ぶ

組織論のインプットを引き続き。おもにタビストック関連の論文から。 まずIsabel Menzies Lyth著『Containing Anxiety in Institutions』から歴史を画した論文、『The functioning of social systems as a defence against anxiety』を読む。総合病院の看護…

Obholzer,Roberts編『The Unconscious at Work』を読む

Obholzer, A.とRoberts, V.Z.編『The Unconscious at Work: Individual and Organizational Stress in the Human Services』を読んだ。 Tavistock Clinic Consulting to Institutions Workshopのメンバーによってまとめられた、精神分析的組織論に関する一冊…