2010-01-01から1年間の記事一覧
ということで、はや大晦日。 今日はすごい雪だった。マンションの前の道路も雪が積もっていて、行き交う車もとろとろゆっくり走っていた。 ところが、突然がっしゃーんと大きな音がした。ベランダに飛び出したら、車三台の玉突き事故が起こっていた。 という…
年の瀬というのに暗い話で恐縮だが、フィリップ・アリエス『死を前にした人間』を読んだ。原書は1977年刊。邦訳は1990年、みすず書房から。 約550ページ、二段組みの巨大な書物ながら、その豊かな内容のの豊富さと論旨の明晰さゆえに、スムースに読み通す…
過去に淀川キリスト教病院のチャプレンとして活動し、現在は関西学院大学神学部教授をつとめる著者が、スピリチュアル・ケアに関する内外の文献を総覧し、その概念の変遷や、ケアの実際に至るまで、幅広い情報をコンパクトにまとめあげた一冊。出版は2004年…
霊魂について調べる中で、谷川健一著『日本の神々』を読む。岩波新書、1999年刊。 まず古代日本におけるカミやタマの特性について、いろいろと考えさせられた。著者によれば、日本における原初の時代には、畏怖の対象となるものはすべてカミとされていた。し…
年末を控えて、外来診療に追われる日々。ちょっと現実逃避したくて、小説に手を出した。 『ボヴァリー夫人』。フローベール、35才(1856年)の作品。伊吹武彦訳の岩波文庫版で。 自らの夢と愛欲に惑わされ、恋に生き、そして滅んでいく女性エンマの悲歌。愚か…
「意味の生成」について考えるために、ロールシャッハテストを十分理解しておくことが重要ではないかと思って、片口安史『新・心理診断法』を再読。 僕はロールシャッハを理解しようと、今から20年ほど前に「関西ロールシャッハ研究会」というところに通った…
20世紀哲学の中心的主題の一つである意味論の歴史的展開を、デリダの主張を中心軸に据えながら、多くの哲学者のあいだで生じた議論のエッセンスを著者独自の視点からまとめあげた一冊。労作といってよい内容で、非常に勉強になった。 精神科治療に従事してい…
今日は寒かった。凍結したフロントガラスから氷を削りとる手がかじかんで痛いほどだった。暖かい息を両手にくり返し吹きかけながら、作業にとりくんだ。 夜、『日本霊異記』を読んだ。新潮日本古典集成(1984)から。薬師寺の僧、景戒の撰述による日本最古の仏…
地獄めぐりといっても、別府温泉のそれではない。 宗教学者の川村氏が、日本人の霊魂観、他界観の時代的変遷をていねいにたどった一冊。いままで葬送法の変化が、日本人の死生観に与えた影響を考えたことがなかったので、大変勉強になった。たとえばモガリの…
米国の精神分析家Ogden,T.H.の『This art of Psyhoanalysis』(2005年刊、Routledge)を読んでいたら、印象的な一節に出会った。 The interpretations made by an analyst who is wed to a particular ''school'' of psychoanalysis are frequently addressed…
フランクルのロゴセラピーを把握する必要があって、彼の本を4冊読んだ。みすず書房の『夜と霧』(1947)、『死と愛―実存分析入門』(1946)、春秋社の『それでも人生にイエスと言う』(1947)、『意味による癒し』に目を通した。『夜と霧』は感動的な名著だと再認…
ポアンカレ著、吉田洋一訳『科学と方法』。原書は1908年刊。翻訳は1953年、岩波文庫から。 この本でポアンカレは、科学者が事実を探求しようとすることの、その心理的基盤を明確にしようと試みる。 まずポアンカレは、事実が無限に存在するこの世界において…
シャルル・フーリエのことを調べる中で、驚愕の事実を発見。アマゾンで彼の本『愛の新世界』の古書に、なんと85万円の値がついているではないか。一冊85万円ということは、100冊なら8500万円、10000冊なら80億5000万円だ。いやあ、これ…
ビオンは8歳のとき、故郷インドを離れ、英国Bishop's Stortford Collegeのprep schoolに入学する。そのときには母親がイギリスまで連れて行き、そこにビオンを一人残してインドへ帰ってしまった。その後、ビオンは三年のあいだ、母親にあうことはなかった。…
週末は出張で奈良に赴いた。途中すこし時間があいたので、伎芸天に再会しようと秋篠寺を訪れた。約20年ぶりのことだ。 バスを降り、小さな東門から境内に入る。木々の豊富な境内は新緑が美しい。ときおり吹く、かすかな風にさわさわとゆれる木漏れ日が、参…
ビオンがイギリスに一人旅だったのが1905年。彼の原風景であったインドは、当時イギリス統治下にあった。しかし反英気運が高まる中で、政情的に不安定な状況に陥りつつあった。支配層である英国人家族で育ったビオンを取り巻く外的状況は、ある種の緊張感の…
1897年にインド北部の街Muttraで生まれたビオンは、8歳で故郷を離れて英国のboarding school - Bishop's Stortford Collegeに入学する。これはヴィクトリア朝で確立された教育習慣が反映した決断であり(The Work of W.R.Bion p2)、その背後には立派なGentle…
イギリス本を引き続き。新井潤美著『自負と偏見のイギリス文化−ジェーン・オースティンの世界』。岩波新書。2008年刊。 「なぜジェーン・オースティンがイギリスで愛されるか」という問いに答えるべく、オースティンの作品と時代背景を読み解いた作品。 著者…
著者が1973年にインド各地に残るイギリス植民地支配の跡を訪れ、思索した内容を記したエッセイ。1975年の岩波新書。著者は近代イギリス経済史を専攻した方。 インドがイギリスにいかにひどい搾取を受けてきたか、そしてイギリスが「劣った国」インドをいかに…
GabbardとOdgenの共著論文。なかなか面白い内容なので、ちょっとまとめておく。Int J Psychoanal (2009) 90: 311-327の掲載論文である。 まずは何より、精神分析界の大物二名の共著論文というところが目を引く。この論文のpp320-322に、完成までに交わされた…
2009年に岩崎学術出版から刊行された一冊。原書は2007年にThe Analytic Pressから。 ストロロウの最近の考えを知るのに良い本。ハイデッガーの考えを読み解こうとした6章は内容的にこなれていない印象があるが、あとの部分はreadableで面白く読める。 この本…
一日、阿蘇に遊んだ。 朝早く山麓の宿を立って、車で中岳火口を目指す。草千里や米塚の草に覆われたやさしい風景を眺めて運転するうちは、窓から吹き込む高原の風が心地よい。しかし斜面をのぼるに従って、車外の景色は草もまばらになり、いきものの姿の乏し…
九州では、由布岳から阿蘇へと巡った。 由布岳は、なかなかに面白い山容をしている。なだらかな緑の尾根が続いているかと思うと、やや突然に稜線がぐっと立ち上がる。しかしその線は険しいものではなく、やわらかな曲線である。だから全体としても、威厳があ…
連休は旅に出ることにした。 フェリーで九州へと向かう。早朝、修学旅行生を降ろすために、船は松山に寄港した。そのしばらく前に目覚めた僕は、船窓の桟に肘をついて、朝焼けに染まる海辺の風景を眺めた。海岸線に小さな漁村が点在し、それぞれの港から何艘…
村上先生のなかなかに読み応えのある論文集。科学史を鳥瞰しつつも、たとえば第一章では「自己」についての厳密な議論を繰り広げる、その視点移動の自在さと、議論の進め方、そして開かれた思考態度が大変参考になった。 印象に残った一節を。 今仮に、英語…
論文がほぼ完成したこともあって、少し気持ちに余裕がでてきた。そこで仕事とは全く関係のない本を読むことにした。選んだのは、紀元前8世紀ギリシャの詩人、ヘシオドスの『仕事と日』。 ヘシオドスは、遊び人の弟ペルセースに対して勤勉を勧めたり、怠惰を…
ずっと一つの論文を書いていた。家にいても職場にいても、頭の隅でいつもぼんやりとその主題のことを考えていた。考えていると、ふと頭の中に、あるアイディアが浮かぶ。それを書き付ける。しかしその文を読み返してみると、何だか納得がいかない。もっと適…
平成22年度の診療報酬改定で、どうやら認知療法の診療報酬が新設される見込みのようだ。 厚生労働省の中医協の資料(ここ)の16〜26頁に、精神科関連の診療報酬改定のあらましが記載されている。その25頁に「認知療法・認知行動療法」の新設が発表され…