2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『愛の新世界』VS『愛の水中花』VS『愛の流刑地』

シャルル・フーリエのことを調べる中で、驚愕の事実を発見。アマゾンで彼の本『愛の新世界』の古書に、なんと85万円の値がついているではないか。一冊85万円ということは、100冊なら8500万円、10000冊なら80億5000万円だ。いやあ、これ…

英国に取り残されたビオンの苦しみ

ビオンは8歳のとき、故郷インドを離れ、英国Bishop's Stortford Collegeのprep schoolに入学する。そのときには母親がイギリスまで連れて行き、そこにビオンを一人残してインドへ帰ってしまった。その後、ビオンは三年のあいだ、母親にあうことはなかった。…

伎芸天に会いに行く

週末は出張で奈良に赴いた。途中すこし時間があいたので、伎芸天に再会しようと秋篠寺を訪れた。約20年ぶりのことだ。 バスを降り、小さな東門から境内に入る。木々の豊富な境内は新緑が美しい。ときおり吹く、かすかな風にさわさわとゆれる木漏れ日が、参…

ガンディー著、田中敏雄訳『真の独立への道』

ビオンがイギリスに一人旅だったのが1905年。彼の原風景であったインドは、当時イギリス統治下にあった。しかし反英気運が高まる中で、政情的に不安定な状況に陥りつつあった。支配層である英国人家族で育ったビオンを取り巻く外的状況は、ある種の緊張感の…

ビオンが思い出すインドの風景

1897年にインド北部の街Muttraで生まれたビオンは、8歳で故郷を離れて英国のboarding school - Bishop's Stortford Collegeに入学する。これはヴィクトリア朝で確立された教育習慣が反映した決断であり(The Work of W.R.Bion p2)、その背後には立派なGentle…

新井潤美著『自負と偏見のイギリス文化−ジェーン・オースティンの世界』

イギリス本を引き続き。新井潤美著『自負と偏見のイギリス文化−ジェーン・オースティンの世界』。岩波新書。2008年刊。 「なぜジェーン・オースティンがイギリスで愛されるか」という問いに答えるべく、オースティンの作品と時代背景を読み解いた作品。 著者…

吉岡昭彦著『インドとイギリス』

著者が1973年にインド各地に残るイギリス植民地支配の跡を訪れ、思索した内容を記したエッセイ。1975年の岩波新書。著者は近代イギリス経済史を専攻した方。 インドがイギリスにいかにひどい搾取を受けてきたか、そしてイギリスが「劣った国」インドをいかに…

G.O.Gabbard, T.H.Ogden著「On becoming a psychoanalyst」

GabbardとOdgenの共著論文。なかなか面白い内容なので、ちょっとまとめておく。Int J Psychoanal (2009) 90: 311-327の掲載論文である。 まずは何より、精神分析界の大物二名の共著論文というところが目を引く。この論文のpp320-322に、完成までに交わされた…

R.D.ストロロウ著、和田秀樹訳『トラウマの精神分析』

2009年に岩崎学術出版から刊行された一冊。原書は2007年にThe Analytic Pressから。 ストロロウの最近の考えを知るのに良い本。ハイデッガーの考えを読み解こうとした6章は内容的にこなれていない印象があるが、あとの部分はreadableで面白く読める。 この本…

阿蘇の火口に死体を探す

一日、阿蘇に遊んだ。 朝早く山麓の宿を立って、車で中岳火口を目指す。草千里や米塚の草に覆われたやさしい風景を眺めて運転するうちは、窓から吹き込む高原の風が心地よい。しかし斜面をのぼるに従って、車外の景色は草もまばらになり、いきものの姿の乏し…

由布岳から阿蘇へ

九州では、由布岳から阿蘇へと巡った。 由布岳は、なかなかに面白い山容をしている。なだらかな緑の尾根が続いているかと思うと、やや突然に稜線がぐっと立ち上がる。しかしその線は険しいものではなく、やわらかな曲線である。だから全体としても、威厳があ…