ビジネスの倫理学

 先日、ビジネス・エシックスの欧米のテキストを取り上げたが、やはり日本語で読める本も取り上げておきたい。

 現時点では日本語で読めるビジネス・エシックスに関する入門書が少ない中で、重要な領域を網羅的にわかりやすく解説しているという点で価値ある書物であろう。
 この書の要約は、立岩真也氏のホームページに掲載されている。
梅津光弘『ビジネスの倫理学』

 著者はもともと宗教哲学を学ぼうと米国に留学した際に偶然出会った師に影響を受けて、この領域を専攻するようになったとのことだが、そうした学問的出自ゆえに本書前半で繰り広げられる欧米の規範倫理学説の紹介も、著者によって適切にかみ砕かれて初心者にもわかりやすい紹介がなされている。また本書後半での具体的ケースの検討においても、倫理学の基準枠にとらわれず、模擬的な生徒の対話をベースにした事例検討がなされている点で、抽象的、理念的議論に陥ることなく、多面的な思考を可能にするだけの配慮がなされており、この点もよい。
 そして個人的には、第4部の「制度としてのビジネス倫理」で整理されている企業や社会において可能な制度化の説明が、私の関わる病院臨床において、高い水準での倫理的実践を可能にする制度的基盤を整える作業に大いに役立つものだと感じた。

 その記述と取り扱う主題の体系性という点ではどうしても欧米のテキストに比べると限界があるが、本邦での出版に必然的に伴ってしまうそうした問題点を覆してあまりあるわかりやすさが、この本を入門書として大変魅力あるものにしている。