世界がわかる現代マネー6つの視点

 先日、「金融史がわかれば世界がわかる」という本のレビューを書いた。

倉都康行著『金融史がわかれば世界がわかる』 - Gabbardの演習林−心理療法・精神医療の雑記帳

 この本が非常に印象深かったので、この著者、倉都康行氏の最新刊も買って読んでみた。

 前作は金融史が主題であったが、今回は現代の金融の全体像を描き出すことが主題となっている。その記述に際して「貯蓄から投資へ」、「日本の銀行問題」、「ファンド」、「米国の金融」、「米国外の金融共同体」、「金融と社会の対話」という6つの切り口を選び出し、現在の金融のさまざまな側面を多面的に描き出すことで現代金融の全体像を浮かび上がらせようとしている。その試みはおおむね成功しているといってよいが、前作で見られたようなこの著者の圧倒的な構成力は今回の作品では窺えなかったのは残念な点だ。これは主題が「現代の金融」だけにしぼられているため、「歴史」という時間軸にそった視点の広がりがどうしても得られないことが一因で、それゆえ前作の立体的で奥行きのある構成と比較すると残念ながらやや平板な印象を受けてしまう。「実務家」と自らを名乗る著者の言葉を用いれば、前作が「実務家」を越えた筆力で描いた金融史であり、今作は「実務家」として手堅くまとめた現代金融の総覧、とでもいうことができようか。
 そういう点でややもの足りなさを感じるものの、逆にこの本ならではの魅力というものもあって、それは第6章における著者の現代マーケットに対する思い切った批判にある。米ドル急落への恐怖から市場参加者がドルを支え続け、そのことによって米国の深刻な財政危機という本質的な問題が隠蔽されてしまっていること、また市場を支える人たちが自らが傷つかないように、基底となる社会の経済成長とは関係なく市場を制御しようとしている傾向があること、そうした指摘に基づいて現実社会から遊離した現代の市場の傾向をかなり強い筆致で批判している。この著者の意見は異論もあるだろうし、門外漢の私にはその主張の金融の視点から見た妥当性はよくわからないが、それでもなおパッションあふれる著者の批判には耳を傾けるだけの価値がある。

 ところでどうでもよいことではあるが、ちくま新書では裏表紙に著者の写真が掲載されているのだが、前作と今作の写真があまりに違いすぎて同じ人とは思えないくらいだ。つい見比べてしまう。