読書(哲学・倫理)
ポストモダンの言説の欺瞞性を暴いたことで知られるソーカル事件。この事件の顛末を詳しく紹介し、意義と問題点を明確に示した金森修の著作、『サイエンス・ウォーズ』(2000, 東京大学出版会)を読む。サントリー学芸賞(2000)受賞の一冊。精神分析を学ぶ際…
プラトンの芸術観を確認したくて、『イオン』を読む。プラトン全集10(1975, 岩波書店)から、森進一訳で。森進一は演歌を唄うだけでなくて、こういう学術的な仕事もしているのか。さすがだ。 さて『イオン』は、吟誦詩人イオンと、ソクラテスの対話篇であ…
イーフ−・トゥアン『個人空間の誕生―食卓・家屋・劇場・世界』せりか書房。1993年。原題は、Segmented Worlds and Self. 1982. University of Minnesota Press. もとはプライバシーはあまり意識されない社会があった。しかし空間が分節化され、個人空間が生…
阪本俊生著『プライバシーのドラマトゥルギー―フィクション・秘密・個人の神話』。世界思想社。1999年刊。著者は社会学者。プライバシー侵害における「まなざし」について、多面的に論じた著作。ここでは二つだけ引用。 まずヴェレッキーの主張から。 プライ…
仲正昌樹著『「プライバシー」の哲学』。2007年。ソフトバンク新書。 プライバシーという概念に関する歴史的考察を軸にして、その議論の展開をコンパクトに、しかし濃密にまとめた一冊。この著者ならではの力量がいかんなく発揮されていて、プライバシーにつ…
もう一冊、竹田青嗣の本を読む。『近代哲学再考―「ほんとう」とは何か-自由論-』。径出版。2004年刊。現代哲学の思想的空虚さを批判する著者が、近代哲学の流れを再検討し、現代においてもなお失っていないその重要性と意義をあらためて確認しようとした著作…
最近「意味」について考えているが、できるだけ原理的に考えようと、竹田青嗣著『言語的思考へ- 脱構築と現象学』を再読している。 竹田氏は意味を次のように説明する。 つまり、「意味」とは、言語記号に内属する対象指示性でもなく、個々人の内的思念、「…
ヨーロッパ思想の発展に決定的な影響力を与えた、プラトンの代表作の一つ『ティマイオス』を読んだ。プラトン全集12巻所収。訳者は種山恭子氏。岩波書店から1975年刊。 冒頭にソクラテスは出てくるが、すぐに引っ込んでしまい、その後ほぼ全編にわたってティ…
自分自身に忠実であろうとする、つまり「ほんものauthenticity」であろうとすることの倫理的意義を問い直した一冊。翻訳は2004年、産業図書から。原書は1991年刊。著者チャールズ・テイラーは、「これからの正義の話をしよう」で一躍有名になったマイケル・…
あけましておめでとうございます。 昨年は7月頃まで断続的に更新していたものの、いったん中断し、しかし12月から発作的に再開するという気まぐれなホームページ運営となりました。おそらく今年も、昨年同様、気ままな更新になると思いますが、お暇であれ…
20世紀哲学の中心的主題の一つである意味論の歴史的展開を、デリダの主張を中心軸に据えながら、多くの哲学者のあいだで生じた議論のエッセンスを著者独自の視点からまとめあげた一冊。労作といってよい内容で、非常に勉強になった。 精神科治療に従事してい…
村上先生のなかなかに読み応えのある論文集。科学史を鳥瞰しつつも、たとえば第一章では「自己」についての厳密な議論を繰り広げる、その視点移動の自在さと、議論の進め方、そして開かれた思考態度が大変参考になった。 印象に残った一節を。 今仮に、英語…
プラトン著、『パイドン』を読んだ。岩田靖夫氏の訳になる、1998年の岩波文庫版で。 死刑直前に、ソクラテスが弟子達とかわした「魂の不死」についての対話を描いた本。 ソクラテスが、シミアスと対話する中で重要なことを語っている。 本当に哲学にたずさわ…
書店で仲正氏の新刊を目にしたので、購入。タイトルは『今こそアーレントを読み直す』。2009年5月刊の講談社現代新書。 ハンナ・アーレントの思考の主題を四つ抽出し、それらの問題が現代に生きる者にとっていかに切実かをうまく示しながら、アーレント…
4月に入って猛烈に忙しい。新患の数が非常に多い。以前、九大精神病理の松尾正先生が、「診療で忙しくて本を読めない」とどこかでこぼすように書いておられた記憶があるが、松尾先生の苦悩がわずかながらも分かる気がする。 診療に追われて勉強に回せる時間…
なんだかめちゃくちゃ業務が忙しいのと、書き物に追われていて、ブログ更新もままならない。 ということで、今回は手短かに読書録だけを。 最近アメリカをテーマにいろいろと本を読んでいるが、その流れで香川知晶著『生命倫理の成立―人体実験・臓器移植・治…
その後の読書など。 先日読んだ仲正昌樹著『集中講義!アメリカ現代思想』が印象深かったこともあり、同じ著者の『「不自由」論―「何でも自己決定」の限界 』『集中講義!日本の現代思想―ポストモダンとは何だったのか』を読んだ。この著者の情報処理能力は極…
その後の読書など。 フィッツジェラルド著、村上春樹訳『グレート・ギャツビー』、一回読んで感激し、現在じっくり二回目に取り組み中。香り高い訳文がすばらしい。感想は日を改めて。 その他、いくつかざっと。 魚津郁夫著『プラグマティズムの思想』。2006…
今日もまた『アメリカのデモクラシー』(岩波文庫)を読み進める。松本礼二氏の訳がすばらしいこともあって、非常に面白い。興味深い点を引用していく。 トクヴィルは、アリストクラシーからデモクラシーへ進むのが歴史的必然だとみなしており、デモクラシー…
なぜだか佐藤俊夫著『倫理学』を読んだ。東京大学出版会、1960年刊。 倫理学の初学者向けのテキストとして刊行された本のようだが、先日レビューを書いた永井均氏の本『倫理とは何か』とくらべると、いかにも教科書然とした一冊だ。永井氏の本が読者に内…
西田幾多郎著『善の研究 』を読み終えた。時間がかかったが、それに見合う収穫の非常に多い濃密な一冊であった。 自分にとって必要な部分を、自分の読み方でとりあえずまとめたごく短い梗概を載せておく。 人間は本来、全体的な存在である。そうした存在にお…
まずは西田幾多郎著『善の研究』を引き続き。第3編「善」に入って、俄然面白くなってきた。「善」という実践的な主題の議論を読む中で、1編、2編の意義が分かりはじめる。行きつ戻りつしながら、粘り強く読んでいく。(しかし面白く感じはじめると、今度は…
アリストテレス著『ニコマコス倫理学』を読み終わった。この本に関するエントリーは、これが最後の予定。そこで今一度この本の中心の主張だけをまとめ、心理療法に照らして考えられることを書いておく。 この本の主張をまとめると、幸福(エウダイモニア)こ…
一昨日から発作的にピアノの練習を始めた。といっても深夜に15分ほどだけ。ジャズが好きなので、いつの日かバド・パウエルのように『クレオパトラの夢』を弾きたい!などと夢を見て、教本を『初心者から学べる ジャズポピュラーピアノ教室』に選定。最初の…
精神分析は、自分の中の見たくないものを見ることを通じて、より全体的に生きることを志向した営為と考えられる。全体的に生きるということは、よくあるwell-beingことと同義とみなしてよいだろう。ではそうした生き方がなぜよいとみなしうるのか、というこ…
先日、ビジネス・エシックスの欧米のテキストを取り上げたが、やはり日本語で読める本も取り上げておきたい。 現時点では日本語で読めるビジネス・エシックスに関する入門書が少ない中で、重要な領域を網羅的にわかりやすく解説しているという点で価値ある書…
なんだかしっかりした記事を書こうとすると推敲に時間がかかってしまって、ああでもないこうでもないと書き直しているうちにページの更新をしないままに日が過ぎてしまった。当初の目的としてはもう少し気楽に発想メモや備忘録として活用しようというアイデ…
ビジネス・エシックスの教科書のサマリーをもう少し続ける。 今回は2章の「汚れた手」。 2 汚れた手 マキャベリは君主論で、悪い人間にかこまれる中で一人だけ「良い人間」でいようとすると、最後には破滅が待っていると述べた。誰しも良い人間でありたい…
これが選んだ教科書。Business Ethics: Problems and Cases作者: Damian Grace,Stephen Cohen出版社/メーカー: OUP Australia and New Zealand発売日: 2004/10/01メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る昨日の文献でおおまかにビジネス…
私は病院勤務ですが、医療も経済行為に他なりません。最近は株式によって資金調達を行う病院を認めるかどうかの議論がなされたり、病院の倒産事例が相次いだりするなど、病院の一職員としては経営的側面についても十分勉強しておかなくてはならない事態にな…