弘前を巡る

 起きるなり部屋のカーテンを開けると窓外に岩木山。頂は黒い雲に隠されてはいるが、その山容はやさしく、雲の切れ間から山裾をまだらに明るくする陽光がドレープのたおやかさを強調している。きっとこの山は、津軽の人たちの心に大きな安定感と誇りを与えているのだろう。

 早朝の弘前をかけ足で。
 まず長勝寺という津軽藩菩提寺へ。寺の奥さんに、庫裡から霊廟、さらに修復中の本堂の中までご案内いただく。茅葺きの素朴な庫裡と、総ヒバ造りの優雅な書院造りの本堂の対比が面白い。本尊の釈迦如来も蒼竜窟の阿弥陀如来もいずれも深い精神性は欠いてはいるが、端正で調和のとれたいいお顔の仏様で、この地の人たちの理想がよくあらわれているようだ。お寺の沿革などうかがう中で、「津軽家の菩提寺なので、檀家が少なくて」と困ったように笑う奥さんの気配りに安らいだ気分になった。
 それから最勝院をまわって、最後に福音教会へ。赤煉瓦造りの教会だったが、入り口から礼拝堂への間をしきるのがなんと大きな襖! 襖を開けると、向こうに光の中から聖母子像が現れる。「キリスト教の日本的受容」の一つの形、というと大げさか。でも面白い。
 その後は研究会や講演会やら、勉強の一日。

 夕刻に青森空港。職場へのおみやげを選定していると、おバカなみやげ発見。「生れて墨ませんべい」。パッケージのイラストは「すまなさそうな太宰治」(cf 東奥日報新聞)の絵。くだらねぇ。あまりのくだらなさに思わず買いたくなるが、じっとがまん。
 機内で、引き続き『Pattern of Madness』。じっくり取り組む。夜は『論語 』。