日記

伎芸天に会いに行く

週末は出張で奈良に赴いた。途中すこし時間があいたので、伎芸天に再会しようと秋篠寺を訪れた。約20年ぶりのことだ。 バスを降り、小さな東門から境内に入る。木々の豊富な境内は新緑が美しい。ときおり吹く、かすかな風にさわさわとゆれる木漏れ日が、参…

阿蘇の火口に死体を探す

一日、阿蘇に遊んだ。 朝早く山麓の宿を立って、車で中岳火口を目指す。草千里や米塚の草に覆われたやさしい風景を眺めて運転するうちは、窓から吹き込む高原の風が心地よい。しかし斜面をのぼるに従って、車外の景色は草もまばらになり、いきものの姿の乏し…

由布岳から阿蘇へ

九州では、由布岳から阿蘇へと巡った。 由布岳は、なかなかに面白い山容をしている。なだらかな緑の尾根が続いているかと思うと、やや突然に稜線がぐっと立ち上がる。しかしその線は険しいものではなく、やわらかな曲線である。だから全体としても、威厳があ…

九州へ船で向かう

連休は旅に出ることにした。 フェリーで九州へと向かう。早朝、修学旅行生を降ろすために、船は松山に寄港した。そのしばらく前に目覚めた僕は、船窓の桟に肘をついて、朝焼けに染まる海辺の風景を眺めた。海岸線に小さな漁村が点在し、それぞれの港から何艘…

ブロノフスキー、マズリッシュ著『ヨーロッパの知的伝統』を読む

4月に入って猛烈に忙しい。新患の数が非常に多い。以前、九大精神病理の松尾正先生が、「診療で忙しくて本を読めない」とどこかでこぼすように書いておられた記憶があるが、松尾先生の苦悩がわずかながらも分かる気がする。 診療に追われて勉強に回せる時間…

Yへのメッセージ

週末は保育園の卒園式であった。卒園文集に寄せたメッセージ、せっかくなので一部を変えて転載しておく。 Yへ−やがて20才になる6才の君に− 卒園おめでとう。 けんめいにお母さんのおっぱいを吸っていた君が ここまで大きく育ってくれたことに感謝している…

『しっとりチョコ』で煩悶後、ブルボン『ルーベラ』で診療の質向上

私の診療机の引き出しには、いつもお菓子がしまってある。おなかが空いてくると、おちついて診療に集中できなくなるので、そんなとき口に入れるお菓子が必要なのだ。 「なのだ」なんて肩に力を入れて言うほどのことではないと分かっているけれど、診療の合間…

村上春樹の「イェルサレム賞」受賞スピーチについて

Jerusalem Post誌に受賞スピーチの一部が、記事の中に埋もれる形で切れ切れに掲載されているが、この断片を池田信夫氏がまとめている。とても重要な内容なので、転載しておく。 本当に励まされる内容だ。昨年11月に『海辺のカフカ』を読んだ際のエントリーで…

『鶴光のオールナイトニッポン』復活に寄せて

思わずエントリー。 『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン』が一夜限りの復活と。 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090211-00000000-oric-ent 私は小学校までは関西地方で育ったが、中学からは遠く離れた地方の学校に入学し、そこの寮で生活した。慣れ親…

クラインVS美輪明宏

今日は子どもたちを保育園へ送迎中、「どっちが強い」という話題になった。たとえば「ヒグマとホッキョクグマはどっちが強い」、「マリオとルイージはどっちが強い」といったテーマについておしゃべりに興じた。そんな中、「和式トイレと洋式トイレ、どっち…

主張撤回:マギー・ミネンコのブームはこないでしょう

その後、研修医のYくんに、早速マギー・ミネンコのことを話してみた。が、「誰っすか、それ」ときょとんとした表情。そして「マジック漫談のマギー司郎の弟子かなんかっすか」という。おいおい、本当に知らないのか。ほら、うわさのチャンネルで「乳モメ〜」…

マギーミネンコのブームが必ずやってくる

昨夜、ブログ用の記事を書いていたところ、突如ハードディスクがカタカタといやな音をたてた。しばらく前から気になっていたのだが、いよいよ不安定になってきた。あわてて過去の文書ファイルを救い出すために、外付けハードディスクにファイルコピー。その…

再びDNAR指示について考えていく

その後、DNAR指示について考えている。 どうして精神科医がこんな問題を考えるのか、不思議に思われるかもしれない。 でも私にとっては重要な問題だ。 それは、一つに精神障害をもった患者さんの判断能力を検討する際によく用いられるキーワードであるautono…

みのもんたの「派遣切り」の失業者に対する批判について

今日、テレビをつけながら朝食の用意をしていたら、『朝ズバッ』という番組の中でみのもんたが吠えているのが耳に入ってきた。それは、本日朝刊のこの記事についてのトークだった。 希望ミスマッチ…派遣切り救済雇用 応募サッパリ 全国の製造業で相次ぐ非正…

心のリハビリ中に終末期医療について考える

知人でこのブログを読んでいる方から、「大丈夫か」との連絡。大丈夫です。お気遣いありがとう。先週はどうしても気分的にブログを書けませんでした。今週からはゆっくり気持ちを立て直して、ぼつぼつ書いていきます。 忙しい中でもいろいろあった。 まずは…

さようならとありがとう

近しい親族に不幸があった。うすうす予想はしていた死であったとしても、不幸な知らせはいつも突然訪れる。その突然さが、どうしようもなく残酷でもある。 亡くなった人のため、そして残された家族のために親族や知人が集まった。棺の前で手を合わせ、感謝し…

西田幾多郎著『善の研究』を読む

西田幾多郎著『善の研究 』を読み終えた。時間がかかったが、それに見合う収穫の非常に多い濃密な一冊であった。 自分にとって必要な部分を、自分の読み方でとりあえずまとめたごく短い梗概を載せておく。 人間は本来、全体的な存在である。そうした存在にお…

苦労して読む『善の研究』

西田幾多郎著『善の研究 』を読みすすめている。ようやく第1編「純粋経験」、第2編「実在」を読み終えた。西田のロジックを追うのが大変で、理解できているか心許ない。注釈を頼りにして、ひーこらひーこらくらいついていく感じ。こりゃ体力勝負だ。 第1編…

メタボ脱出と西田幾多郎

遅い起床。寒い新年の朝。 まずは雑煮を「うまい、うまい」と言いながらたらふく食べて、初詣に出かける。10円玉1枚を賽銭箱に放り込んだところで、何を祈ろうかと思案する。ふと最近とみに出てきたお腹が気になっていたことを思い出し、「メタボ脱出」を…

大つごもりに樋口一葉の『大つごもり』を読む

ということで県下で一番の書店に行って、本を買いこんできた。というより、「買いこんできてしまった」というのが正しい表現だろう。書店にいって本を手にとりはじめたら、気分が高揚し、すぐにはいらない本までいろいろと買ってしまって、当初考えていたよ…

泣いて馬謖を斬る−年末恒例、蔵書の大処分

今日は大掃除。「今年の汚れ、今年のうちに」とばかり、家族総出で床から窓から鴨居から全部まとめて家中ぴかぴかだ。ああ、気持ちがいい。 その後は、もう不要になった本の処分にうつる。私は活字中毒なので、本を処分しないで放っておくと家の中にどんどん…

ピアノを弾きつつ『ニコマコス倫理学』を読み進める

一昨日から発作的にピアノの練習を始めた。といっても深夜に15分ほどだけ。ジャズが好きなので、いつの日かバド・パウエルのように『クレオパトラの夢』を弾きたい!などと夢を見て、教本を『初心者から学べる ジャズポピュラーピアノ教室』に選定。最初の…

3人のおばちゃんが電子辞書の話題で盛り上がる災難

精神分析的心理療法フォーラム参加のため、早朝に起床し一路神戸へ。 混んでいる電車で四人がけの座席の一席をなんとか確保し、電子辞書を片手にBritton著『Sex, Death, and the Superego: Experiences in Psychoanalysis』を読み進める。大変面白く集中して…

明日の研究会にむけて予習

今日は職場の忘年会。こういう年中行事は悪くない。とにかく元気な若い人たちのパワーに圧倒されて帰ってきた。 遅い帰宅のあと、明日の研究会のために予習を大急ぎで。 研究会というのは、精神分析的心理療法フォーラムのこと。はじめて参加するので、どう…

「老いと死」レクチャー終了

「老いと死」レクチャー終了。今回はうまくいった。聴衆との情緒的な交流に心を開きながら、レクチャーの内容をその情緒の上に乗せていけたので、こちらものって話ができたし、終わってからも活発な意見のやりとりができた。やはり患者際で日々もまれている…

ルノー著『緩和ケア』、ボウルビィ著『対象喪失』などを読む

この間、読んだ本を手短に。 ミッシェル・ルノー『緩和ケア ー精神分析になにができるかー』。ラカン派の分析家が緩和ケアについて講演した内容を採録した本。本文の記述から推測される聴衆は、一般の医師や緩和ケアに関わる医療職の人たちのようだ。個人的…

E.H.エリクソン著『ライフサイクル、その完結』を読む&さようなら、若井はやと

「老いと死」レクチャーの準備をさらに進める。 エリクソン著『ライフサイクル、その完結』。The Life Cycle Completed-A Review。1982年刊。村瀬孝雄、近藤邦夫の両氏による邦訳は1989年にみすず書房から刊行された。その後、妻ジョーンによって補われた3…

ユーゴーの絶倫ぶりに驚嘆−ボーヴォワール『老い』

というわけで、シモーヌ・ド・ボーヴォワール著『老い』を読んだ。原著は1970年刊。朝吹三吉による邦訳版は1972年刊。 数多くの文献を渉猟してまとめあげた力作ではあるが、あまりにも文献の引用が多すぎ。集めた資料を全部放り込んだかのような内容で、『老…

忙中読書記

ここ数日、ばたばたとして更新できなかった。 まだばたばた中だが、読書録だけは書いておきたい。 まずE.H.エリクソン著『ライフサイクル、その完結』と『老年期―生き生きしたかかわりあい』を読んだ。特に前者はその濃密な思考に感激した。重要な本なので、…

Rachael Davenhill編『Looking into Later Life』を読む

「老いと死」レクチャーの準備を始める。 まずはRachael Davenhill編『Looking into Later Life: A Psychoanalytic Approach to Depression and Dementia in Old Age』から。これはカルナックブックスが刊行しているタビストック・クリニックシリーズの老年…