城之内早苗の人身事故によせて

 診療が予定より早く終わり時間が大きくとれた。チャンスなので、がしがし本を読みメモをまとめる。

 まず精神科治療学増刊号『児童・青年期の精神障害治療ガイドライン(新訂版)』に目を通す。私も、そんなにスタンダードからはずれたことをしていないらしいことが分かって安心する。
 宮本常一の『家郷の訓』は良い本だった。柔らかな筆致によって、彼の育った村で慣習的に確立していた秩序のありようが示される。そして濃密な人間関係の中に流れる情愛の美しさに対するせつない思い、一方で個人を抑圧していた集団の掟の重さに対する胸の塞がる思い。そんな思いがないまぜに湧いてきて、心を動かされる。
 しかし昔の日本に存在した秩序の再興を求めてロマンティックな感興とともに反動的運動を行う人たちがいるが、そうした秩序の背後に存在していた心理的に抑圧された人々の息苦しさにまで考えが及んでいるのだろうか。

 さらに宮本常一を相対化するためにバーバラ・ロゴフ著『文化的営みとしての発達―個人、世代、コミュニティ』にも手を伸ばす。これは今夏の「世界乳幼児精神保健学会」のため来日していた発達心理学トレヴァーセンが薦めていたので買った本。目新しい主張はないので特に驚きはないが、日本とは異なる形態の育児が世界中で行われていることを知るだけでも十分臨床に役立つ。何よりのこの本の長所は育児の実際例の豊富さにあり、それらに添えられている沢山の写真を見ているだけでも楽しい。

 さらにレクチャーのネタ集めのために、尾木直樹著『バカ親って言うな! モンスターペアレントの謎』を読む。モンスターペアレントと呼ばれる人たちは要は自己愛的な人なのだから、対応は「できないことはできない」といいつつ、子どもとともに親も成長できるように根気よく支えていく、という著者の結論でよいわけだが、集められている実例がふるっている。

「校舎の色が気に入らないので、子どもを学校に通わせられない」という親。
「卒業アルバムに自分の子どもが写っている写真が少ないので、アルバムを作り直せ」と言った親。
「子どもの服装、髪型が乱れたのは、学校のせいだ」といった親。
昔、子どもが学校に持ち込んできていたたまごっちを預かっていると、「たまごっちを死なせた」と怒鳴り込んできた親。

 手塩にかけて育てた「たまごっち」が死んで、よほどショックだったんだろうな。

 ところで、

おニャン子の城之内早苗さんが人身事故 自転車の米国人女性が重傷

おニャン子クラブのメンバーで、演歌歌手の城之内早苗さん(40)=本名・木村早苗=が、東京都港区で自転車と衝突する人身事故を起こしていたことが11日、分かった。(産経新聞)

 城之内早苗はいったいいつまで「元おニャン子」といわれなくてはならないのか。河合その子高井麻巳子ならともかく、その後演歌の世界で20年も活躍してるんだから、もう許してやってもいいんじゃないのか、産経新聞。このままだと何十年後かの訃報記事にも、「元おニャン子の城之内さん」と書かれてしまいそうだ。「元おニャン子」に時効はないのか。