「現代の家族」レクチャーの仕込み開始

 レクチャー「現代の家族」への仕込みを始める。今回はあまり残された時間がないので、とにかく集中してやる。
 まず現代のエスプリ420、畠中宗一編『母子臨床再考』をざっと読む。なかなか面白い。平井正三氏が良い論考を書いている。雑誌、精神療法2003年第5号『母子臨床』も目を通す。
 次に目を通したのは、アイブル=アイベスフェルト著『愛と憎しみ』。「母子のきずな」は後天的に学習されたものではなく、うまれつき備わった人間の欲求に基づいていることを、動物行動学的、文化人類学的な研究成果を通して明らかにし、「愛すること」が人間にとって最も重要な情緒的交流だと述べる。しかしスピッツやボウルビイなどの精神分析的な研究に依拠しつつ結論を述べていることから、あくまで精神分析的な乳幼児研究の成果を、動物行動学や文化人類学の豊富なデータに基づいて補完した本という印象。
 その後、S.キャセッセ著『入門メルツァーの精神分析論考』を読む。この本では、彼の処女作の『The Psycho-Analytical Process (Harris Meltzer Trust)』に出てくるgathering of the transferenceという言葉に、「転移の収束」(p18)という訳語を当てているが、これは適当な訳語だろうか。という疑問を持ちつつ、次へ進む。
 さらにDavid Taylor編『The Talking Cure: Mind and Method of the Tavistock Clinic (Tavistock Clinic)』の8章、「What Is a Family」にざざっと目を通す。
 最後に『被虐待児の精神分析的心理療法―タビストック・クリニックのアプローチ』。豊富な事例が述べられているだけでなく、治療者の追い詰められた時の感情が正直に書かれており、泥まみれになって治療を進めていく姿勢を飾らない筆致で描き出している点がすばらしい。われわれが困難な事例にのぞんで怖じ気づいたときでも、それでもその事例に向き合い続ける勇気を与えてくれる本だ。