岡田暁生著、『西洋音楽史』を読む

 名著の誉れ高い、岡田暁生著『西洋音楽史』をようやく手に取った。2005年刊の中公新書
 たしかに噂に違わぬ傑作だ。非常に面白い。音楽がつくられる場と、聴かれる場との相互関係の中から、次なる展開をうながすモーメントが生まれ、それが音楽に変化をもたらしていく様を、的確に、そして無駄のない記述で描き出していく。新書一冊という分量制限の中で、西洋音楽史の全体像を描き出すというきわめて困難な課題を、目立った瑕瑾なくやり遂げた著者の筆力は圧倒的だ。とりわけ百花繚乱のロマン派の展開を、たばねきった著者の構成力の確かさには敬服した。
 一応、このブログに関連することを一つひいておくと、深層心理学の誕生を準備した一九世紀の時代精神は、次のようなものだったと。

神を殺してしまったせいで行き場がなくなった、「目に見えないものへの畏怖」や「震撼するような法悦体験」に対する人々の渇望があったに違いない。そして一九世紀において、合理主義や実証主義では割り切れないものにたいする人々の希求を吸い上げる最大のブラックホールとなったのが、音楽だったのである。(p169)

 この本はいずれ再読したい。この著者の他の作品も機会があれば、ぜひ読んでみたい。

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)
西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)岡田 暁生

中央公論新社 2005-10
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おすすめ平均 star
starクラシック素人にはちょとツラい
star入門書として傑作
star著者の得意分野には「なるほど」とさせられるが