そして神戸の精神神経学会

 現在、神戸で開催されている精神神経学会に参加中。会期は三日間だが、都合で今日と明日のみの参加。
 ここで敢えて告白しておく。僕の好きな音楽のジャンルは、ムード歌謡である。そしてカラオケの十八番は「敏いとうとハッピー&ブルー」の『よせばいいのに』である。だから、ポートタワーなどおなじみの建物が見えてくると、つい「こうーべー」と『そして神戸』(内山田洋とクールファイブ)を歌ってしまいたくなるのだ。
 ということで、断片的だが学会の感想を記しておく。
 まず昼頃に到着して、先達に聴く『新福尚隆先生に伺う』に参加。先生が歩んでこられた道を、写真をまじえながらざっくばらんに語られた。アジア各国の精神医療の現状や、近年発足した「アジア精神医学会」の活動状況など、知らなかったことをいろいろ学ぶことができた。アジアという視点から考えることも必要だと痛感。
 次に会長講演、神戸大の前田潔先生による『高齢者精神医学のすすめ』。精神科医神経内科医を対象にしたアンケート結果をもとに、日本の認知症診療の実態を紹介された。診断にSPECTを使わない医師が多いことが意外であった。
 その後、特別講演『Bearing Values on Clinical Decisions』。講師は、韓国精神医学界の重鎮と紹介された、北野大さん似のHo Young Lee先生。まず先生は、ICD やDSMの重要性を説きつつも、それによって精神科医の人間理解が平板化している現状を批判された。一方、ヤスパース精神分析が果たしてきた意義を強調された。しかしそれらが衰退しつつある今、「価値」の重要性を今一度明示せねばならない、と主張され、Value-based psychiatryという概念を紹介された。この概念、講演を聴く限りではポピュラーになりつつある概念なのかと思ったが、Googleでひいてみると、なんと5件しか検索結果が出てこない。それに比べて『そして神戸』を引くと、3,690,000万件も出てくるというのに。どうなってんだ。
 その後、「認知症」のポスターセッションに参加。いずれも事例報告であったが、現場で悪戦苦闘している様子が伝わってきて、それだけでも励ましになった。
 最後に国際シンポジウム『Current Status of Psychiatry in Asian Countries』に途中から参加。インド、日本、パキスタンの精神医療の現状を相互に紹介し、交流を深めることが主眼のシンポジウム。名古屋大学の尾崎紀夫先生と、北海道大学橋本直樹先生が座長。参加者は少なく25人程度。うち半分は海外からの参加者。
 日本の発表者Mariko Setsuie先生(国立帯広病院)は、児童青年精神医学の専門医になるためのトレーニングに関して、自身の体験と専門医を対象に行ったアンケート調査の結果を報告された。質疑応答では、発表内容とまったく関係のない質問が続出した。しかし慌てることなく、非常に流暢な英語できびきび返答される姿が大変印象的であった。
 次にパキスタンの発表者、Saqib Bajwa先生によるパキスタンの精神医療の現状報告。これも印象的。人口1億8000万人の国に、精神科医が100人ちょっとしかいないとのこと。貧困やスティグマが与えている影響が非常に大きいことが理解できた。この発表を聴いて、あらためて新福先生の業績の重みがわかった。
 ということで、神戸の夜は更けていく。そして神戸(しつこいな)の精神神経学会は明日へ続く。明日は、誰かうまい嘘のつける相手を探す予定。