吉岡昭彦著『インドとイギリス』

 著者が1973年にインド各地に残るイギリス植民地支配の跡を訪れ、思索した内容を記したエッセイ。1975年の岩波新書。著者は近代イギリス経済史を専攻した方。
 インドがイギリスにいかにひどい搾取を受けてきたか、そしてイギリスが「劣った国」インドをいかに自分たちの価値観で教化しようとしてきたかがよく分かる一冊である。

 イギリスのインド統治の実績を年次報告のかたちにまとめた、『精神的・物質的進歩』という報告書がある。・・・中身を読んでみると、イギリスが、いかにインドの物質的進歩のみならず、精神的進歩のために尽力し貢献したか、いかにその実績があがったか、ということを各分野にわたって、飽きもせず、くり返しまき返し述べている。・・・イギリスのインド支配は、イギリス人のこのような精神構造と思想的動機を抜きにしては語れないであろう。それは、上はグラッドストーンから下は名もなき民衆にいたるまで共通したところの、「帝国的使命感」である。(p186)

 インドを統治していた英国の人々は、イギリス的なものの価値を信じて、それを「劣った」人々に教化することが正しいと信じて疑わなかったのだろう。
 またチャーチルの『インド−演説集と一つの序論』(1931)という本の記事の紹介も印象深い。

 インド・・・に住むのは、多くの劣等民族であり、・・・大多数は、その日暮しの生活に追われている愚民である。(p210)

インドとイギリス (岩波新書 青版 934)
インドとイギリス (岩波新書 青版 934)
岩波書店 1975-01
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