『日本霊異記』を読む
今日は寒かった。凍結したフロントガラスから氷を削りとる手がかじかんで痛いほどだった。暖かい息を両手にくり返し吹きかけながら、作業にとりくんだ。
夜、『日本霊異記』を読んだ。新潮日本古典集成(1984)から。薬師寺の僧、景戒の撰述による日本最古の仏教説話集で、成立は9世紀前半頃という。
これは抜群に面白い。奇想天外な話が多くて、それだけでも面白いが、説話中に登場する母子関係に伏在している性愛的な関係性が、母子の情愛にまぎれてうかびあがるところが、なまめかしくも哀しさを誘う。
たとえば、上巻『烏の邪淫を見て世を厭ひ、善を修する縁』では、
(ある男の子が病に冒され、臨終の際にいた。その子が突然、母親に向かって)「母の乳を飲まば、わが命を延ぶべし」といふ。母、子の言に随ひ、乳を病める子に飲ましむ。子飲みて嘆きていはく、「ああ、母の甜き(あまき)乳を捨てて、われ死なむか」といひて、すなわち命終しぬ。(p111)
もう一つ、中巻『女人大きなる蛇に婚せられ、薬の力によりて、命を全くすること得る縁』から。ある教典に収載されている、男子を産み育てた一人の母親の話が紹介される。母親はその子に対して、深い愛欲を抱く。
深く愛心を結び、口にその子のまらを吸う。母三年を経て、たちまち病ひを得たり。命終の時に臨み、子を撫でまらを吸いて、かくいひき。われ生々の世、常に生れて相はむといひて、隣の家の女に生れぬ。(p200-201)
いやあ、どれもこれも面白い。日本の古典をもっと読まねば。
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