竹田青嗣著『言語的思考へ−脱構築と現象学』

 20世紀哲学の中心的主題の一つである意味論の歴史的展開を、デリダの主張を中心軸に据えながら、多くの哲学者のあいだで生じた議論のエッセンスを著者独自の視点からまとめあげた一冊。労作といってよい内容で、非常に勉強になった。 
 精神科治療に従事していれば必ず、患者が自らの生を意味づけていく作業に多かれ少なかれ関与することになる。そうした経験を積み重ねてきた立場から言えば、意味の生起において「文脈」と「情動」が果たす役割は非常に大きいことは間違いない。しかしこの本を読んで良くわかるのは、「文脈」は重要な議論の焦点として取り上げられてきたものの、「情動」に着目した思想家はほぼ皆無だということだ。そのことを考慮すれば、ビオンが「情動」を基盤にすえて人間の思考と意味の生成に関する理論構築を試みたことは、思想史的にも重要な意義があるといえるだろう。

言語的思考へ- 脱構築と現象学
言語的思考へ- 脱構築と現象学竹田 青嗣

径書房 2001-12-15
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