谷川健一著『日本の神々』

 霊魂について調べる中で、谷川健一著『日本の神々』を読む。岩波新書、1999年刊。
 まず古代日本におけるカミやタマの特性について、いろいろと考えさせられた。著者によれば、日本における原初の時代には、畏怖の対象となるものはすべてカミとされていた。しかし、そうしたカミは人格も意志もはっきりとは持たず、むしろタマというほうがふさわしいものだった、という。
 このタマは、人間以外にも存在し、相手かまわず付着し、自在に離れるものとされていた。畏怖の対象にはタマの存在が想定されたから、たとえば木々にも、岩にもタマは存在していたし、相手に対して何らかの畏怖心をもたらす「言葉」にもタマが宿っていると考えられた。これが言霊だ。だから、ありがたい響きのある言葉や、恐怖を感じさせる言葉にはタマ(言霊)がやどっているとみなされることになる。
 あと印象深かったのは、日本でも死者を食べる風習があったということだ。

 本土では葬式を「骨かじり」とか「骨かみ」と呼んでいる所が残っている。この骨は文字通り、死者の骨である。・・・先祖を食する風習は、沖縄では実際におこなわれていたと思われるふしがある。伊波普猷は次のように言っている。
 昔は死人があると、親戚縁者が集まって、その肉を食った。後世になって、この風習を改めて、人間の代りに豚肉を食うようになったが、今日でも近い親類のことを真肉親類といい、遠い親類のことを脂肪親類というのは、こういうところからきた。(「南島古代の葬制」)(p158)

 大切な人を失った遺族は、その対象喪失の痛みを乗り越え、いずれ死にゆく存在である自らの永続性を確かなものにするために、死者の肉を食べて、死者や先祖との一体感を体験しなくてはならなかったのだろう。

日本の神々 (岩波新書)
日本の神々 (岩波新書)谷川 健一

岩波書店 1999-06-21
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