大岡信著『日本語の豊かな使い手になるために』

 大岡信著『日本語の豊かな使い手になるために―読む、書く、話す、聞く』、太郎次郎社2002年。大岡が「ことば」について縦横無尽に語り尽くしたインタビュー集。タイトルは気恥ずかしいが、中身は面白い。詩人の口から流れ出ることばについての洞察の数々は、どれもが読み手の思考を刺激してくれる。中でも印象的な一節を二つほど。

 書くということは、まさに子どもを産むのと同じ要素があると思います。ある意味でエロスと関係のある、セクシュアルなものだと思います、ぼくは。ある狭いところを通過して、外へポンと飛び出る。狭いところを通過するその瞬間はひじょうに苦しいけれど、それを通り抜けたときに、すばらしい快感が生まれる。だからこそ言語の問題は、人体の生理の問題と密接にかかわっていると思うんです。(p153)

 ことばは尽きせぬ水のように無限にあるわけですが、しかも、それは流れとして存在している。川のように一定の形をもっているわけではなく、いくつもの流れが、ひじょうに速い速度で駆けめぐっている、そういうイメージですね。その流れのなかにちょっと釣り糸をたらしてみると、ちゃんと魚がかかってくる。その魚にはきちんとした形がある。それが文字や音声として表現されることばです。つまり、ことばは流れであると同時に、はっきりとした一つひとつの固体としてそこに存在している・・・(p254)

日本語の豊かな使い手になるために―読む、書く、話す、聞く
日本語の豊かな使い手になるために―読む、書く、話す、聞く大岡 信

太郎次郎社 2002-07
売り上げランキング : 237395


Amazonで詳しく見る
by G-Tools