Brett Kahr著『D.W.Winnicott A Biographical portrait』(2)
引き続き、Brett Kahr著『D.W. Winnicott: A Biographical Portrait』から。
第二次世界大戦を契機に疎開児童や戦争孤児への関わりをはじめたウィニコットは、子どもを自宅で預かることを試みるようになった。預かった子どもは次第に激しい依存と攻撃的行動を見せ始めたが、ウィニコットは仕事で忙しく、ほとんど家に帰る時間がとれなかった。だから子どもへの対応は、当時の妻アリスがほとんど行うことになった。しかし彼女は精神療法のトレーニングを受けていたわけではない。それゆえ不慣れな子どもの対応を強いられたアリスにとっては重大な心理的負担となり、それまでも不安定だった彼女の精神は、以後さらに不安定さを増すことになった。
一方ウィニコットはこの頃、後に二番目の妻になるクレアに出会い不倫関係に陥る。そして最終的にウィニコットから話を切り出し、1949年にアリスと離婚した。
しかしその後もアリスは、ウィニコットに連絡を取り続けていた。彼へ送ったアリスの手紙が残されているが、その文面はどれもが哀切きわまりないものだ。
1959年の手紙の一節。
Thank you too for writing on my birthday. I was totally alone, as I am now.(p88)
1960年の手紙で、見た鳥について書いた一節。
I have had only swans for company this year - a father, mother + baby(p88)
さらにアリスはほかの鳥についても縷々記した後、手紙の結びに次の言葉を残している。
Do write to me. I wish I could see you.
アリスは孤独な生活の中で、ウィニコットがまた暖かい気持ちを寄せてくれることを夢見ている。その一方でアリスは、ウィニコットとの間に子どもを持てなかったことについての後悔と罪悪感に苛まれてもいる。
この時期ウィニコットがクレアと充実した日々をおくっていたことを考えると、この手紙に表れているアリスの悲しみとせつなさが胸にせまる。
D.W. Winnicott: A Biographical Portrait | |
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