ボストン変化プロセス研究会著『解釈を越えて』

 ボストン変化プロセス研究会著『解釈を越えて―サイコセラピーにおける治療的変化プロセス』。2011年、岩作学術出版社刊。ダニエル・スターンを主要メンバーとして含む、ボストングループの長年の研究をまとめた一冊。原題はChange in Psychotherapy: A Unifying Paradigm。Nortonから2010年刊。
 意味に関する論考を含む、5,6章あたりの主張をごく簡単にまとめておく。
 著者らはまず、言語的な交流の背後でも、常に非言語的な水準の交流が展開していることを確認する。そしてこの水準の交流のほうがより基底的で重要だとみなし、そしてこの水準でも言語化されない知識が集積しているのだという。これを著者らは「関係性をめぐる暗黙の知implicit relational knowing」と呼ぶ。
 彼らは、この水準で「意味」が生起するのだと考えている。つまり言語哲学などが前提としている意味についての一般的理解−言語的に理解されることによって意味が生成する−は間違っており、情動や感覚といったレベルでの交流の中で意味が生起する、と見るのが正しいというわけだ。

 われわれの考えによれば、意味(とその仲介)を語義上の意味に求めるのは、精神分析的思考において受け継がれてきた根本的な過ちである。言語と象徴的な形の思考は、それ以前に意味を生成し、また表象していた様式の上に構築される。(p138)

 実際、象徴機能は、生後2年目の中頃まで利用可能ではないが、だからと言って、乳児が考えていないわけではない。思考と象徴は同義ではないし、同一な構造でもない。(p139)

 この意味に関する主張以外にも、非常に興味深い論点が多く含まれており、思考を刺激してくれる良書だ。

解釈を越えて―サイコセラピーにおける治療的変化プロセス
解釈を越えて―サイコセラピーにおける治療的変化プロセスボストン変化プロセス研究会 丸田 俊彦

岩崎学術出版社 2011-08-10
売り上げランキング : 519182


Amazonで詳しく見る
by G-Tools