読書(心理療法)

ダニエル・スターンのvitality論

ダニエル・スターンの2010年の著作、Forms of Vitality(Oxford University Press刊)を読んだ。人間の活動の基盤で作動しているvitalityを鍵概念として、人間心理についての定式化をこころみた野心的な書。 スターンはvitalityを生命性のあらわれととらえ、こ…

ボウルビィによる、クライン派への批判

ジョン・ボウルビィは1957年、英国分析協会で、「The Nature of the Child's Tie to His Mother」を発表した。動物行動学的視点を導入して乳児の行動について検討した論文だったが、この論文は強烈な批判にさらされた。とくにクライニアンからの批判は、かな…

精神分析過程で生じる神経学的変化

著作『Affect Dysregulation & Disorders of the Self 』と『Affect Regulation & the Repair of the Self 』で有名なAllan Schoreの最新論文集『The Science of the Art of Psychotherapy 』から、第4章「Right Brain Implicit Self at Core of Psychoanal…

秘密の心理

小此木啓吾『笑い・人みしり・秘密―心的現象の精神分析』(創元社、1980年刊)を読んでいて、印象的な一節に出会った。 そもそも秘密は、秘密にされる内容の如何によってではなく、むしろ、何ごとかを「秘密にしよう」とし、その「秘密を保とう」とする主体…

Therapeutic actionの要素について

G.O.GabbardとD.Westenの共著論文『Rethinking therapeutic action』 Int. J. Psycho-Anal.,84:823-841.に目を通す。 精神分析的心理療法において、治療的効果をもたらす介入は何なのか。解釈なのか、治療関係なのか、あるいは他の要素なのか。この問題につ…

守秘義務について語るクリストファー・ボラス

さらにプライバシーについて考えるために、The New Informants: Betrayal of Confidentiality in Psychoanalysis and Psychotherapyを読む。95年、Jason Aronson刊。独立派の分析家クリストファー・ボラスと、精神分析に造詣の深い法律家Sundelsonの共著本。…

オグデンのプライバシー論

オグデン著『もの想いと解釈―人間的な何かを感じとること』(2006)から「プライバシー、もの想い、そして分析技法」を読む。原書はReverie and Interpretation: Sensing Something Human.(1997, Jason Aronson)。 この論文でオグデンは、人が感情や思考を真に…

ジョン・スタイナーの恥に関する考察

John Steiner著『Seeing and Being Seen: Emerging from a Psychic Retreat』を読んだ。2011年、Routledge刊。彼の前著『こころの退避―精神病・神経症・境界例患者の病理的組織化』の続編ともいうべき本だ。 この本でスタイナーは、病理的組織化から抜け出る…

ウィニコットの臨床の問題点 

論文「D.W.Winnicott's Analysis of Masud Khan : A Preliminary Study of Failures of Object Usage」を読んだ。Contemporary Psychoanalysis, 34(1998): 5-47に掲載されたもの。 著者Hopkinsは、フィラデルフィア在住の分析家。攻撃性に関するウィニコット…

ボストン変化プロセス研究会著『解釈を越えて』

ボストン変化プロセス研究会著『解釈を越えて―サイコセラピーにおける治療的変化プロセス』。2011年、岩作学術出版社刊。ダニエル・スターンを主要メンバーとして含む、ボストングループの長年の研究をまとめた一冊。原題はChange in Psychotherapy: A Unify…

Brett Kahr著『D.W.Winnicott A Biographical portrait』(2)

引き続き、Brett Kahr著『D.W. Winnicott: A Biographical Portrait』から。 第二次世界大戦を契機に疎開児童や戦争孤児への関わりをはじめたウィニコットは、子どもを自宅で預かることを試みるようになった。預かった子どもは次第に激しい依存と攻撃的行動…

Brett Kahr著『D.W.Winnicott A Biographical portrait』

Brett Kahr著『D.W. Winnicott: A Biographical Portrait』を読んでいる。1997年のGradiva Award for biography受賞の一冊。まだ途中だけれど興味深いエピソード満載で、大変面白い。 クライン派がいかにウィニコットをきらっていたかの実例を四つほど。(pp7…

フロイト著『無常』 

フロイト全集14巻(岩波書店)の『無常』(本間直樹訳)を読む。1915年執筆、1916年発表の小品。 フロイトは友人(ザロメと推測されている)と詩人(リルケ?)とともに、「花咲き乱れる夏の風景のなかを散歩」した。その際、詩人が「自然の美しさ・・・を…

窪寺俊之著『スピリチュアル・ケア学序説』

過去に淀川キリスト教病院のチャプレンとして活動し、現在は関西学院大学神学部教授をつとめる著者が、スピリチュアル・ケアに関する内外の文献を総覧し、その概念の変遷や、ケアの実際に至るまで、幅広い情報をコンパクトにまとめあげた一冊。出版は2004年…

片口安史著『新・心理診断法』

「意味の生成」について考えるために、ロールシャッハテストを十分理解しておくことが重要ではないかと思って、片口安史『新・心理診断法』を再読。 僕はロールシャッハを理解しようと、今から20年ほど前に「関西ロールシャッハ研究会」というところに通った…

「○○派」と自己規定することの問題

米国の精神分析家Ogden,T.H.の『This art of Psyhoanalysis』(2005年刊、Routledge)を読んでいたら、印象的な一節に出会った。 The interpretations made by an analyst who is wed to a particular ''school'' of psychoanalysis are frequently addressed…

フランクルのロゴセラピーについて

フランクルのロゴセラピーを把握する必要があって、彼の本を4冊読んだ。みすず書房の『夜と霧』(1947)、『死と愛―実存分析入門』(1946)、春秋社の『それでも人生にイエスと言う』(1947)、『意味による癒し』に目を通した。『夜と霧』は感動的な名著だと再認…

英国に取り残されたビオンの苦しみ

ビオンは8歳のとき、故郷インドを離れ、英国Bishop's Stortford Collegeのprep schoolに入学する。そのときには母親がイギリスまで連れて行き、そこにビオンを一人残してインドへ帰ってしまった。その後、ビオンは三年のあいだ、母親にあうことはなかった。…

G.O.Gabbard, T.H.Ogden著「On becoming a psychoanalyst」

GabbardとOdgenの共著論文。なかなか面白い内容なので、ちょっとまとめておく。Int J Psychoanal (2009) 90: 311-327の掲載論文である。 まずは何より、精神分析界の大物二名の共著論文というところが目を引く。この論文のpp320-322に、完成までに交わされた…

R.D.ストロロウ著、和田秀樹訳『トラウマの精神分析』

2009年に岩崎学術出版から刊行された一冊。原書は2007年にThe Analytic Pressから。 ストロロウの最近の考えを知るのに良い本。ハイデッガーの考えを読み解こうとした6章は内容的にこなれていない印象があるが、あとの部分はreadableで面白く読める。 この本…

盆の本

10月からある大学で、「臨床精神医学」というタイトルの連続講義をする予定があり、最近はその準備にかかりっきりです。「臨床精神医学」というタイトルではあるのですが、力動精神医学の全体像をおおまかにつかんでもらうことを目的にしています。このレク…

小熊英二著『1968(上)若者たちの叛乱とその背景』を読む

名著『〈民主〉と〈愛国〉』の小熊英二さんの新刊ということで、知るなり購入した。上巻1092頁、下巻1008頁の巨大な著作である。ただ、まだ上巻だけしか出版されておらず、下巻は7月末に刊行予定となっている。出版は新曜社から。 個人的には、村上…

グロデック著、野間俊一編訳著『エスとの対話』

『エスとの対話』を読んだ。これはグロデックの論文のアンソロジーである。ただ野間先生のかなり丁寧な解説が添えられているので、野間先生の著作といったほうがよい構成となっている。 この本を読むと、グロデックが精神分析、心身医学に与えた影響がよく理…

中根千枝著『タテ社会の人間関係』を読む

組織論がらみで、中根千枝著『タテ社会の人間関係』を再読。 いまや古典となっている、日本社会論の傑作である。 刊行後41年を経過してもなお基本的な理論の骨格は全く陳腐化しておらず、いまなお古典としての命は衰えることはない。せっかくなので前半だ…

組織論をまだ学ぶ

組織論のインプットを引き続き。おもにタビストック関連の論文から。 まずIsabel Menzies Lyth著『Containing Anxiety in Institutions』から歴史を画した論文、『The functioning of social systems as a defence against anxiety』を読む。総合病院の看護…

Obholzer,Roberts編『The Unconscious at Work』を読む

Obholzer, A.とRoberts, V.Z.編『The Unconscious at Work: Individual and Organizational Stress in the Human Services』を読んだ。 Tavistock Clinic Consulting to Institutions Workshopのメンバーによってまとめられた、精神分析的組織論に関する一冊…

アメリカ関連から組織論へ

前回からずいぶん間があいた。臨床が忙しいせいもあったが、それよりもある書き物をしていて、その主題の世界に沈潜していて、ほかのことを書く心の余裕がほとんどなかった。かなり目鼻がついてきて、すこしその世界から抜け出してきたこともあり、最近読ん…

土居健郎著『臨床精神医学の方法』を読む

まったく予期していなかった土居健郎先生の新刊である。タイトルは『臨床精神医学の方法』。2009年1月30日、岩崎学術出版社刊。ここ10年ほどの講演録を中心に集めた一冊である。出版を知るなりすぐ注文し、土居先生の新刊を手にできる幸せをかみしめつつ読み…

 グレゴリ・ジルボーグGregory Zilboorg著『医学的心理学史』を読む

「外来統合失調症ambulatory schizophrenia」の概念で知られるジルボークGregory Zilboorgが著した『医学的心理学史』A History of Medical Psychology(みすず書房)を読んだ。原書は1941年。神谷美恵子氏による日本語版は1958年出版。 ジルボーグは1890年キ…

フロイトS.Freud著『精神分析療法の道』を読む(3)

フロイト著『精神分析療法の道』(人文書院刊『フロイト著作集 第9巻 技法・症例篇』所収)について、さらに続ける。 これまでのエントリーは、以下に。 『精神分析療法の道』を読む(1) 『精神分析療法の道』を読む(2) 今回はこの論文でフロイトが示し…