サルの笑いについて

 サルの情動について理解したいと思い、京都大学霊長類研究所編『新しい霊長類学』を読んでみた。講談社から2009年に刊行された、ブルーバックスの一冊。霊長類学の最新の知見がわかりやすくまとめられていて、とても読みやすく面白い本だった。
 なかでも正高信男さんによる、「サルは泣いたり笑ったりしますか」という項目が面白い。サルは泣いたり笑ったりしないそうだが、しかしサルにもそれぞれの起源と思われる行動が観察されるという。ここでは笑いの起源についての解説を引用する。

人間の笑いの特徴の一つは、ハッハッハッ・・・という呼気の断続にあるとされています。この点で共通しているのが、ニホンザルなどが仲間を脅すときに発する、いわゆる威嚇音という類いの音声です。・・・ニホンザルよりも、系統的に人間に近いとされる類人猿の仲間のチンパンジーでは・・・「ホーホーホー」と互いに挨拶のために鳴きかわすのが観察されます。呼気の断続は基本的には攻撃性の表出であると考えられています。それをお互いに、自分たち以外の第三者に向けて放出し、無害化する中で、むしろ相互の連帯を強めるところから、笑い合うというコミュニケーションが進化したのではないかと、推測されています。(pp157-158)

 笑いは、攻撃性と連続したもののように感じていたが、このように説明されると攻撃性と笑いの近縁性がよく理解できる。そしてこの説明を敷衍すれば、笑芸にはボケとツッコミが必要なことや、ボケに対してツッコむことで観客に笑いがうまれる機序まで説明できそうだ。

新しい霊長類学 (ブルーバックス)
新しい霊長類学 (ブルーバックス)京都大学霊長類研究所

講談社 2009-09-18
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