自己意識の生起と視覚のかかわり

イーフ−・トゥアン『個人空間の誕生―食卓・家屋・劇場・世界せりか書房。1993年。原題は、Segmented Worlds and Self. 1982. University of Minnesota Press.
 もとはプライバシーはあまり意識されない社会があった。しかし空間が分節化され、個人空間が生じ始めるとともに、「自己意識」が芽生えはじめ、プライバシーという概念が浮上してくる。この本は、西洋近代化とともに自己意識が生じる過程を、多くの資料に依拠しながら歴史的に考察した著作。
 興味深い思索に満ちているが、印象的だったのが視覚についての考察だ。いくつか引用しておく。

 視覚は最も「冷たい」感覚である。それはわれわれの感情を刺激する度合いが最も少ない。視野はわれわれを包み込まないし、われわれは前にあるものしか見ることができない。・・・単に見えているだけでは、完全に所有していることにはならない。見ている人とみられている物との間には、物理的・心理的な距離が存在しているのだ。美しい顔や日没は感情を強く刺激するが、しかしどちらも触れることができないので、感覚上の距離が残るのである。(p167)

 人間が自意識をもつことが可能なのは、脳と目のおかげである。・・・見ることが、個人的な行動として、すなわち自らの意志による主導権の把握や維持として経験されることが多いために、自意識の発達を促すということである。ほかの感覚は比較的受け身である。(p167)

 視覚と思想には、いくつかの重要な共通点がある。まず、両者はともに明確さをもっている。われわれが目を開く時、音や匂いが拡散した環境は、空間にはっきりとした境界をもつ物体の世界に取って代わられる。同様に、われわれが意識的にものを考え始めると、曖昧さは明確さに道を譲り、われわれが理解しようとしているものは目の前に並んでいるように思われるのだ。したがって、われわれはそれを指して「You see?」と言えるのである。(p187)

 プライバシー、そして見ること、見られることについて考える際に、これらの発想を頭にとめておくことは重要だと感じる。まだ自分の中で統合できないが、記憶にとどめておきたい。

個人空間の誕生―食卓・家屋・劇場・世界
個人空間の誕生―食卓・家屋・劇場・世界イーフー トゥアン YiFu Tuan

せりか書房 1993-04
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