原田憲一先生による記述現象学の評価

 続けて、記述的精神医学関連の文献を読む。原田憲一『精神症状の把握と理解』、中山書店刊。2008年。この中に、ヤスパースの仕事についての積極的な評価の一節があったので引いておく。

 しかし思うに、記述現象学が精神症状の抽出、概念化に重要な貢献をしたのに比べると、それ以後の精神病理学的成果は、精神症状の成因論として目覚ましいものがあったが、症状学に対してはほとんど寄与していないのではないか。症状学は記述現象学によって豊かにされ、その地盤を固められたといってよいが、それ以外の華々しい精神病理学は記述現象学で耕された精神症状学をそのまま使い、その上に立っておこなわれた議論である。(p12)

 確かにそうなのだろう。
 この本は、原田先生の篤実なお人柄がつたわってくるような無駄のない文体で、さまざまな精神症状が詳しく、そして明解に説明されている。大変よく書かれた本で、知り合いの研修医には一読を勧めたくなった。
 原田先生には、『意識障害を診わける』という傑作があるが、既に絶版になっているようだ。みすずの精神医学重要文献シリーズで再刊してはくれないだろうか。

精神症状の把握と理解 (精神医学の知と技)
精神症状の把握と理解 (精神医学の知と技)原田 憲一

中山書店 2008-12-25
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