読書(精神医学)

現代夢研究の入門書

J.Allan Hobson著『Dreaming』。Oxford University PressのA Very Short Introductionシリーズの一冊。夢研究の第一人者、Hobsonの手になる夢についての入門書。これまでの夢研究の歴史、現在の到達点などがシンプルにまとめられて、とても読みやすく、かつ…

タビストックにおける、ボウルビィの仕事のはじまり

Jeremy Holmesによるボウルビィの解説本『John Bowlby and Attachment Theory (Makers of Modern Psychotherapy)』に、彼がタビストックで仕事をはじめた当時のことが書いてある(pp.26-29)。以下に、短くまとめておく。 第二次大戦後、Bowlbyはタビストック…

チクセントミハイの精神分析批判

遊びやゲームについての「フロ−理論」で有名なチクセントミハイの主著『楽しみの社会学』に目を通していて、精神分析を批判しているところがあったので引いておく。原題はBeyond Boredom and Anxiety。1975年、Jossey-Bass, Inc.刊。日本版は今村浩明訳、197…

情動と感情が生命体にはたす役割

アントニオ・R・ダマシオ著『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』。原書はLooking for Spinoza- Joy, Sorrow, and the Feeling Brain。2003年刊。邦訳はダイヤモンド社から2005年刊行。田中三彦訳。 情動と感情の生命体における位置づけとその…

原田憲一先生による記述現象学の評価

続けて、記述的精神医学関連の文献を読む。原田憲一『精神症状の把握と理解』、中山書店刊。2008年。この中に、ヤスパースの仕事についての積極的な評価の一節があったので引いておく。 しかし思うに、記述現象学が精神症状の抽出、概念化に重要な貢献をした…

ヤスパースの言う「記述」とは

「記述的精神医学」を理解する必要がでてきて、まずはヤスパースの『精神病理学原論』をチェック。1913年刊。みすず書房の西丸四方訳で確認する。本書の前半で、ヤスパースの基本的考えが説明されているので、そこを簡単にまとめておく。 脳と精神とのはたら…

情動についての入門書

ディラン・エヴァンズ著『感情』。岩波書店、2005年刊。原題はEmotion。2001年刊。Oxford University Pressから刊行されているVery short Introductionシリーズの一冊。著者はイギリスの感情心理学者。 人間の情動に関する近年の知見を、多面的にわかりやす…

フィリップ・アリエス『死を前にした人間』

年の瀬というのに暗い話で恐縮だが、フィリップ・アリエス『死を前にした人間』を読んだ。原書は1977年刊。邦訳は1990年、みすず書房から。 約550ページ、二段組みの巨大な書物ながら、その豊かな内容のの豊富さと論旨の明晰さゆえに、スムースに読み通す…

「○○派」と自己規定することの問題

米国の精神分析家Ogden,T.H.の『This art of Psyhoanalysis』(2005年刊、Routledge)を読んでいたら、印象的な一節に出会った。 The interpretations made by an analyst who is wed to a particular ''school'' of psychoanalysis are frequently addressed…

フランクルのロゴセラピーについて

フランクルのロゴセラピーを把握する必要があって、彼の本を4冊読んだ。みすず書房の『夜と霧』(1947)、『死と愛―実存分析入門』(1946)、春秋社の『それでも人生にイエスと言う』(1947)、『意味による癒し』に目を通した。『夜と霧』は感動的な名著だと再認…

英国に取り残されたビオンの苦しみ

ビオンは8歳のとき、故郷インドを離れ、英国Bishop's Stortford Collegeのprep schoolに入学する。そのときには母親がイギリスまで連れて行き、そこにビオンを一人残してインドへ帰ってしまった。その後、ビオンは三年のあいだ、母親にあうことはなかった。…

G.O.Gabbard, T.H.Ogden著「On becoming a psychoanalyst」

GabbardとOdgenの共著論文。なかなか面白い内容なので、ちょっとまとめておく。Int J Psychoanal (2009) 90: 311-327の掲載論文である。 まずは何より、精神分析界の大物二名の共著論文というところが目を引く。この論文のpp320-322に、完成までに交わされた…

R.D.ストロロウ著、和田秀樹訳『トラウマの精神分析』

2009年に岩崎学術出版から刊行された一冊。原書は2007年にThe Analytic Pressから。 ストロロウの最近の考えを知るのに良い本。ハイデッガーの考えを読み解こうとした6章は内容的にこなれていない印象があるが、あとの部分はreadableで面白く読める。 この本…

祝 『精神医学の基本問題』復刊

先日、内村祐之著『精神医学の基本問題』が絶版となっていることを憤る記事を書いた。 ところが、なんと最近になって復刊されたようだ。おお、すばらしい。創造出版のクリーンヒットだ。 しかも解説を臺弘先生がお書きになっているという。これまたすばらし…

ベアー、コノーズ、パラディーソ著『神経科学−脳の探求』を読む

連続講義のために、教科書的な本をいろいろとあさっている中で良書を見つけた。 ベアー、コノーズ、パラディーソ著『神経科学―脳の探求』。邦訳は西村書店から2007年に刊行。原著第3版をテキストにしている。訳者は加藤宏司、後藤薫、藤井聡、山崎良彦といっ…

盆の本

10月からある大学で、「臨床精神医学」というタイトルの連続講義をする予定があり、最近はその準備にかかりっきりです。「臨床精神医学」というタイトルではあるのですが、力動精神医学の全体像をおおまかにつかんでもらうことを目的にしています。このレク…

グロデック著、野間俊一編訳著『エスとの対話』

『エスとの対話』を読んだ。これはグロデックの論文のアンソロジーである。ただ野間先生のかなり丁寧な解説が添えられているので、野間先生の著作といったほうがよい構成となっている。 この本を読むと、グロデックが精神分析、心身医学に与えた影響がよく理…

組織論をまだ学ぶ

組織論のインプットを引き続き。おもにタビストック関連の論文から。 まずIsabel Menzies Lyth著『Containing Anxiety in Institutions』から歴史を画した論文、『The functioning of social systems as a defence against anxiety』を読む。総合病院の看護…

Obholzer,Roberts編『The Unconscious at Work』を読む

Obholzer, A.とRoberts, V.Z.編『The Unconscious at Work: Individual and Organizational Stress in the Human Services』を読んだ。 Tavistock Clinic Consulting to Institutions Workshopのメンバーによってまとめられた、精神分析的組織論に関する一冊…

土居健郎著『臨床精神医学の方法』を読む

まったく予期していなかった土居健郎先生の新刊である。タイトルは『臨床精神医学の方法』。2009年1月30日、岩崎学術出版社刊。ここ10年ほどの講演録を中心に集めた一冊である。出版を知るなりすぐ注文し、土居先生の新刊を手にできる幸せをかみしめつつ読み…

 グレゴリ・ジルボーグGregory Zilboorg著『医学的心理学史』を読む

「外来統合失調症ambulatory schizophrenia」の概念で知られるジルボークGregory Zilboorgが著した『医学的心理学史』A History of Medical Psychology(みすず書房)を読んだ。原書は1941年。神谷美恵子氏による日本語版は1958年出版。 ジルボーグは1890年キ…

フロイトS.Freud著『精神分析療法の道』を読む(3)

フロイト著『精神分析療法の道』(人文書院刊『フロイト著作集 第9巻 技法・症例篇』所収)について、さらに続ける。 これまでのエントリーは、以下に。 『精神分析療法の道』を読む(1) 『精神分析療法の道』を読む(2) 今回はこの論文でフロイトが示し…

フロイトS.Freud著『精神分析療法の道』を読む(2)

さらにフロイト『精神分析療法の道』を読んでいく。今日は、フェレンツィの能動(積極)技法についてフロイトが言及をはじめたところから。 フロイトは、彼が許容する「分析家の能動性」として次の二つをあげる。 抑圧されているものの意識化と抵抗の発見の…

フロイトS.Freud著『精神分析療法の道』を読む

すみません、フロイトの技法に関するマニアックな話題が続きます。ちょっと興がのってきたので、しばらく続ける予定。 さて『想起、反復、徹底操作』の次に重要な技法論文である、1919年の『精神分析療法の道』も見ていく。小此木啓吾訳、1983年刊の人文書院…

フロイトS. Freud著『想起・反復・徹底操作』を読む(3)

一昨日から、フロイトの『想起、反復、徹底操作』(人文書院『フロイト著作集 第6巻 自我論・不安本能論』所収)をとりあげている。1914年のこの論文でフロイトが考えていた治療図式は、患者が行動として反復している内的体験を、言語化して意識化すればその…

フロイトSigmund Freud著『想起・反復・徹底操作』を読む

自律autonomy、あるいは「患者の主体性」について考える中で、フロイトの考えを確認したくなり、『想起・反復・徹底操作』Erinnern,Wiederhoken undDurcharbeiten 1914を再読。今回は『フロイト著作集 第6巻 自我論・不安本能論 (6)』人文書院(1969年初版)…

北中淳子著「鬱のジェンダー」

臨床精神医学2008年9月号の特集「うつ病周辺群のアナトミー」にざっと目を通した。興味深く読んだが、中でも医療人類学者である北中淳子氏の「鬱のジェンダー」(臨床精神医学37(9):1145-1150,2008)という論文が読ませる。 過去発表された北中氏の二論文の要…

宮岡等著「口腔内セネストパチー」

必要があって、セネストパチーについてまとめておく。 宮岡等氏の「口腔内セネストパチー」(精神科治療学12(4);347-355,1997)という論文が簡潔でよくまとまっている。その中の一部を抜き出して要約する。 1 概念 身体の様々な部位の異常感を奇妙な表現で訴…