Rachael Davenhill編『Looking into Later Life』を読む

 
「老いと死」レクチャーの準備を始める。
まずはRachael Davenhill編『Looking into Later Life: A Psychoanalytic Approach to Depression and Dementia in Old Age』から。これはカルナックブックスが刊行しているタビストック・クリニックシリーズの老年期の精神療法に関する一冊で、2007年刊。邦訳は未刊行。シリーズ全体の編集者はマーゴ・ワデルで、この人の『思春期を生きぬく―思春期危機の臨床実践』収載の論文については11月13日の記事で取り上げた。

 『Looking Into Later Life』は、タビストックで高齢者に対して行われている精神分析的臨床がその理論的背景とともに多面的に紹介された本だ。内容は老年期うつに対する個人療法、カップルセラピー、グループセラピー、それから乳幼児観察の方法を援用したデイホスピタルやナーシングホームの観察についての紹介、さらに認知症のケアに関する精神分析的な知見、といったものを含んでおり非常に多岐に渡っている。しかも精神分析の基礎的知識については必要最低限の説明があるので、精神分析に明るくない臨床家が読んでも理解できるように書かれているのがうれしい。
 著者達の理論的背景は基本的にはクライン派に連なるもので、クライン派の理論を一定知っている人にとってはそんなに目新しい理論的、臨床的知見にあふれているわけではない。だから新しい知見を得るというよりも、高齢者にも精神分析的臨床がこんなに多様な形で行われているのだ、という事実の紹介に価値がある本だといえる。
 ただあえて気がかりな点をあげれば、クライン派以外の分析家の業績には無関心なことだ。たとえば老年期の精神分析的理解において重要な仕事をした分析家の一人にエリク・エリクソンがいるが、この本にはEriksonのEの字も出てこない。どうしてだろうか。編者のDavenhill氏がエリクソンの業績を知らないとは考えにくいので、エリクソンの紹介によってこの本の統一性が損なわれるため意図的にそれを避けたか、あるいは言及する必要がそもそもないと考えたか、のどちらかであろう。どちらの理由であるにしても、無視するのはもったいない気がするが。

 ところで本筋とは関係ないが、編者のDavenhillが引用しているクラインの文章が印象的なので引いておく。これは1936年のlectureでの一節でunpublishedだという。だから、多分邦訳もされていない、、、はずだ。

...fruitful analytic work ... will only be effective if it is coupled with a really good attitude towards the patient as a person. By this I do not mean merely friendly human feelings and a benevolent attitude towards people, but in addition to this, something of the nature of a deep and true respect for the workings of the human mind, and the human personality in general.(p66)

 ところで「終末期の心理」についていろいろとネットで調べ物をしていたら、こんなのを発見。NHKオンデマンド「こころの時代」から、河合隼雄キューブラー・ロスの対談!
NHKオンデマンド|エラーが発生しました
 これは面白そうだ。いったい何を話し合っているのだろうか。有料じゃなければすぐ見るのだけれど。