現代夢研究の入門書

 J.Allan Hobson著『Dreaming』。Oxford University PressのA Very Short Introductionシリーズの一冊。夢研究の第一人者、Hobsonの手になる夢についての入門書。これまでの夢研究の歴史、現在の到達点などがシンプルにまとめられて、とても読みやすく、かつ有益な本だ。
 著者は、この本で次のような主張を行う。古来夢研究は、主に内容に焦点が当たってきた。しかし夢を科学的に捉えようとするなら、その形式に注目しなくてはならない。では夢の形式的な特徴は何だろうか。覚醒時と比較して、その特徴を抽出するならば次の二つがあげられる。まず覚醒時より強調される側面があるということ。たとえば内側から生まれてくる知覚や情動は強調して表現される。逆に、覚醒時より弱くなる側面もある。たとえば記憶、思考、自己内省的な気づき、ロジカルな推論力などは低下あるいは消失してしまう。
 このような覚醒時と睡眠時の脳活動の違いは、脳内部のchemicalな違いに依拠しているとHobsonは言う。つまり覚醒と睡眠の違いは、セロトニンノルアドレナリンの放出水準の違いによって生み出されているというわけだ。
 では夢は、どのような神経学的基盤があるのだろうか。Hobsonは、次のように説明する。REM睡眠においては、まず橋から電気的活動がランダムに発射される。この活動は視床を介して大脳皮質のさまざまな領域を活性化し、それによって多数の知覚や情動が引き出される。これらの諸要素を大脳皮質が連合し、筋の通った一つの話に合成する。これが夢として体験されている精神現象なのだという。そしてこの理論モデルが、著者らが1977年に提唱した夢の「活性化-統合モデルactivation-synthesis model」の説明ということになる。
 その他にも興味深い主張が多い。たとえば夢の中でネガティブな情動が多いのはなぜか、という問いについては、それはそちらのほうがより生存に重要な情動であり、古い脳領域の活性化から生じる情動だからだ、と答えている。
 また多数のコラムも挿入されていて、これも興味深いものばかりだ。たとえば、動物は夢を見るのか、夢は白黒なのか色つきなのか、夢は未来を予知するのか、といった問いについて、わかりやすい解説を載せている。
 さらにフロイトの夢理論のどこに問題があったのかを、現代の夢研究の知見をもとに整理して示しているところも、心理臨床家にとっては非常に参考になる部分だ。

Dreaming: A Very Short Introduction (Very Short Introductions)
Dreaming: A Very Short Introduction (Very Short Introductions)J. Allan Hobson

Oxford Univ Pr (T) 2011-06-04
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