ダニエル・スターンのvitality論
ダニエル・スターンの2010年の著作、Forms of Vitality(Oxford University Press刊)を読んだ。人間の活動の基盤で作動しているvitalityを鍵概念として、人間心理についての定式化をこころみた野心的な書。
スターンはvitalityを生命性のあらわれととらえ、これが生命をいきいきとしたものにすると考える。そしてvitalityは、動きmovement、時間time、力force、空間space、意図/方向性intention/directionalityの五つの構成要素からなるという。
そしてvitalityの神経学的な基盤は覚醒系にあり、睡眠と覚醒のリズムのように、活動性の高い状態と低い状態の往還のリズムが、生体のあらゆる活動の中−たとえば運動、感覚、感情、思考といった活動の中に備わっていると、彼は主張する。そしてこのvitalityが、さまざまな神経活動を統合することで全体的な経験が生まれ、生に意味が生じるのだと彼は主張し、音楽やダンス、演劇や映画のようなアートは、このvitalityを刺激することで、感動を与え、いきいきとした感覚をもたらしているのだとも主張する。
このような立場から、スターンは心理療法についても論及する。心理療法でもっとも重要な要素は治療者と患者がいかにvitalityを表現しているかという点にあり、その表現を促進するのは両者のauthenticな態度である。このような発想は彼もその一員である、ボストン変化プロセス研究会の『解釈を越えて』の主張と重なるものだ。
スターンによるvitalityへの注目は、1985年の著作『乳児の対人世界』で生気情動vitality affectsに注目したことに起源があるが、さらに生を活性化する根源的要素としてvitalityを位置づけたのがこの著作である。生気論を現代によみがえらせようという野心が垣間見えて、なかなかにスリリングな一冊だ。
Forms of Vitality | |
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