精神分析過程で生じる神経学的変化

 著作『Affect Dysregulation & Disorders of the Self 』と『Affect Regulation & the Repair of the Self 』で有名なAllan Schoreの最新論文集『The Science of the Art of Psychotherapy 』から、第4章「Right Brain Implicit Self at Core of Psychoanalysis」を読む。2012年4月。Norton刊。

 まず彼は多くの脳科学的研究をもとに、左脳がexplicit learningに、右脳がimplicit learningに関与していることを明示する。そしてこの事実を踏まえ、「自己」もまた二つの水準で考えるべきだという。つまり、意識的な左脳の自己システムと、無意識的な右脳の自己システムとにわけるということだ。
 もちろん左脳は、言語機能のプロセッシングの能力をもっている点で重要ではある。しかし人間存在において真に重要なのは、情動をプロセッシングする右脳であって、右脳が有しているimplicitなホメオスタシスを保つ機能と、コミュニケーションの機能が重要なのだ。そうSchoreは主張する。
 さらに彼は、感情affectsこそが共感的コミュニケーションの中心で機能しており、それゆえ臨床活動の焦点は、意識的な感情だけでなく、無意識的感情の調整におかれるべきだと主張する。さらにGinotの言を引きつつ、患者に変化をもたらすのはエナクトメントであり、言語的な解釈も重要ではあるけれど、もっと重要なのは治療者患者間の情動交流なのだと主張する。
 また転移−逆転移は、治療者の右脳と患者の右脳の間で生じる潜在的コミュニケーションだとみなすことができ、そこに患者と治療者の無意識的な一次過程が表れているのだと、彼はいう。つまりもの想いreverie、あるいは夢見dreamingの状態で生じる自由連想的、一次過程的な連想のプロセスは、主に右脳によって行われているということだ。

 膨大な神経科学の研究結果を論拠に用いつつ、精神分析過程で生じる変化を神経学的に説明しようとする彼の行論は、なかなかに刺激的なものだった。

The Science of the Art of Psychotherapy
The Science of the Art of Psychotherapy (Norton Series on Interpersonal Neurobiology)Allan N. Schore

W W Norton & Co Inc 2012-04-02
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