Obholzer,Roberts編『The Unconscious at Work』を読む

 Obholzer, A.とRoberts, V.Z.編『The Unconscious at Work: Individual and Organizational Stress in the Human Services』を読んだ。
 Tavistock Clinic Consulting to Institutions Workshopのメンバーによってまとめられた、精神分析的組織論に関する一冊。Part1が、Conceptual Frameworkということで、組織を理解し、援助する際の基本的な理論的枠組みが提示される。その後、Part2からが各論的な内容になり、彼らが実際に行っているコンサルティングサービスの具体例が紹介される。
 本書のPart1だけ簡単にまとめておく。
 まず1章では、William Haltonが、無意識が組織にどのような影響を与えているかについて、主にクライン理論から説明している。彼はまず無意識について説明し、人間や組織には、痛みを避けようとする傾向がそもそも備わっていることを指摘する。そして妄想分裂ポジションと抑鬱ポジションについて説明し、スプリッティング、否認、理想化などについても概説を行う。さらに羨望について触れ、現代は他者を出し抜かないと生きていけない時代であるため、羨望の理解が重要だとも述べている。
 次に、投影同一化について説明した上で、精神分析的なコンサルタントは、組織内の投影を同定し、回避されている情動を組織が受け止められるように援助することが大切だと述べている。
 2章では、Jon Stokesがビオンの集団理論、つまりワーク・グループとbasic assupmtionグループについての概説を行う。まず一般的な説明が行われ、dependency、fight-flight、pairingの類型化について紹介している。
 今度のレクチャーに使えそうな記述だけ超訳しておくと、

 Baグループの中にいると、メンバーは批判能力や個人としての能力を失って、集団の力に支配されてしまう。そして些末なことの議論に血道を上げることになり、問題を早急解決しようとするが、全体的視点を欠いているため現実が見えなくなる。そうなるとグループは成長できなくなる。

 真のリーダーシップとは、注意を払うべき問題を同定し、解決へ向かう集団の力を発揮させることができる能力である。Baでは、そうしたリーダーシップは失われている。リーダーとメンバーとが相互依存に陥ってしまい、メンバーの願望を満たすようにリーダーが働くだけとなる。こうなると、メンバーは責任が回避できて楽ちんだが、彼らの個性は犠牲にされてしまう。

 いろんな職種があつまる会合では、共通する目標があいまいになりがちなので、何も決定できないで時間を浪費することになりがちである。ありがちなのが「スタッフ・ミーティング」などのはっきりしない名前のミーティングが開かれ、ただ集まって、一体感を得るためだけに開催される。そこで何かが決定されても、それが実行にうつされることは少ないものだ。というのも、それが実行されているかどうかを確認する権威をだれももっていないからである。そうならないためには、そのグループのprimary taskを確認することが何より大切である。

 ただBa心理を洗練された形で用いるのはあってよい。患者が医者や看護師を信頼して、身を任せていくのはdependenceだ。軍隊でfight-flightに入ることで戦えることもある。

 第3章では、Roberts, V.Z.がOpen system theoryの説明を行う。すべて生体はオープンシステムであり、膜に囲まれた有機体は、インプットを受けると、生体内でそれを変化させ、外部に排出する、という構造をとっている。クルト・レヴィンががこの生体の特性を集団に援用して理論化したが、これをタビストックで拡張し、発展させたのがRice, A.K.とEric Millerである。
 この構造を安定化させるには、primary taskが何かを確認するのが重要で、集団がこれを忘れてしまうと、生産的にならず、混乱してしまう。
 ただprimary taskを設定する際にありがちなのが、あまりに一般的な目標を置いてしまうことである。たとえば病院が設定する、「患者の健康に奉仕する」といった一般的すぎて、よくわからない目標など。次にありがちなのが、目標でなく手段をprimary taskにしてしまう場合。たとえば「この機関は、カウンセリングと助言を行うところです」といったもの。また当初は妥当なprimary taskを設定できていても、その後の環境の変化に対応して、primary taskを変化させないのも問題である。
 primary taskがはっきりしていないと、boundaryが不明確になり、組織が防衛的になってしまう。だからboundaryをしっかりマネージすることが、組織運営上極めて重要である。
 コンサルタントが組織に問いかける際には、次の問いが重要となる。まず「この組織のprimary taskは何ですか」、そして「そのtaskと、この組織の活動とはどう関係していますか」。もしこの問いが明確でなければ、「本来の目的から外れた、何か別の目標に向かっているグループではないですか」(たとえばただ集まって、一体感を得ることが目的になっていはしないか?)
 この本はまだまだ続くが、まとめはこれくらいにしておく。
 全体的に言えば、精神分析理論だけに拘泥せず、さまざまな心理学の理論を援用している点が印象的で、しかも理論優先でなく、現場優先の姿勢をとって、援助の有効性を高めようとしている著者らの実際的な態度に好感を持った。
 この本の末尾で、編者Obholzerが書いている印象的な一文をあげておく。

 My favourite definition of consultancy is 'licensed stupitidy'.

 この一文に、組織の中の人にとっては当たり前とされていることでも、コンサルタントが素朴な疑問、あほみたいな疑問をぶつけながら関わっていくことを重視している、彼らの姿勢がよく表れている。これを重視する理由は、組織内で当たり前とされている背後に、否認などの防衛が伏在しており、そこに注意をあてることによって、組織が自分の問題を発見していくことが期待できるからだという。
 きっとObholzerさんはAho-based therapyを支持してくれるのではないだろうか。なおAho-based therapyについて知りたい向きはこちらを。