2009-01-01から1年間の記事一覧

アメリカ関連から組織論へ

前回からずいぶん間があいた。臨床が忙しいせいもあったが、それよりもある書き物をしていて、その主題の世界に沈潜していて、ほかのことを書く心の余裕がほとんどなかった。かなり目鼻がついてきて、すこしその世界から抜け出してきたこともあり、最近読ん…

ブロノフスキー、マズリッシュ著『ヨーロッパの知的伝統』を読む

4月に入って猛烈に忙しい。新患の数が非常に多い。以前、九大精神病理の松尾正先生が、「診療で忙しくて本を読めない」とどこかでこぼすように書いておられた記憶があるが、松尾先生の苦悩がわずかながらも分かる気がする。 診療に追われて勉強に回せる時間…

ザビーナ・シュピールラインの人生とユング(4)

ずいぶんほったらかしにしていたテーマだが、気分が向いてきたので、また続けます。 なおこの連載のリンクは、一回目、二回目、三回目。 前回はフロイトとユングが断絶するところまで、紹介した。今回はその後の顛末。 フロイトとユングが決裂した後も、シュ…

忙中閑無し読書録

なんだかめちゃくちゃ業務が忙しいのと、書き物に追われていて、ブログ更新もままならない。 ということで、今回は手短かに読書録だけを。 最近アメリカをテーマにいろいろと本を読んでいるが、その流れで香川知晶著『生命倫理の成立―人体実験・臓器移植・治…

Yへのメッセージ

週末は保育園の卒園式であった。卒園文集に寄せたメッセージ、せっかくなので一部を変えて転載しておく。 Yへ−やがて20才になる6才の君に− 卒園おめでとう。 けんめいにお母さんのおっぱいを吸っていた君が ここまで大きく育ってくれたことに感謝している…

『しっとりチョコ』で煩悶後、ブルボン『ルーベラ』で診療の質向上

私の診療机の引き出しには、いつもお菓子がしまってある。おなかが空いてくると、おちついて診療に集中できなくなるので、そんなとき口に入れるお菓子が必要なのだ。 「なのだ」なんて肩に力を入れて言うほどのことではないと分かっているけれど、診療の合間…

E.H.カー著『歴史とは何か』などを読む

その後の読書など。 先日読んだ仲正昌樹著『集中講義!アメリカ現代思想』が印象深かったこともあり、同じ著者の『「不自由」論―「何でも自己決定」の限界 』『集中講義!日本の現代思想―ポストモダンとは何だったのか』を読んだ。この著者の情報処理能力は極…

フィッツジェラルド著『グレート・ギャツビー』を読む

スコット・フィッツジェラルド(1896-1940)著、村上春樹訳、『グレート・ギャツビー』。1925年刊。村上訳は中央公論新社から2006年に刊行された。 すばらしい一冊だった。 『グレート・ギャツビー』は「喪失」の物語、だと紋切り型の紹介文でよく言われる。手…

W.ジェイムズ著『プラグマティズム』などを読む

その後の読書など。 フィッツジェラルド著、村上春樹訳『グレート・ギャツビー』、一回読んで感激し、現在じっくり二回目に取り組み中。香り高い訳文がすばらしい。感想は日を改めて。 その他、いくつかざっと。 魚津郁夫著『プラグマティズムの思想』。2006…

カーネル・サンダース神社設立建白書

あまりのベタさ加減におもわず食いつく。このネタ。 http://mainichi.jp/select/wadai/graph/20090311/?link_id=RSH02 非常に興味深いニュースだ。 というのは、このニュースに現れる人たちの発言を追っていくと、御霊信仰に典型的に見られる人間心理の布置…

村上春樹著『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』を読む

引き続きアメリカ関連。思想書に少し飽いたので、アメリカらしい文学を読んでみようと思ったものの、何にしようかとふと悩む。書棚を物色して、フォークナーとどちらにしようか迷ったが、結局フィッツジェラルドを読むことを決めた。 昔、といっても20年ほ…

トクヴィル著『アメリカのデモクラシー』を読む(2)

今日もまた『アメリカのデモクラシー』(岩波文庫)を読み進める。松本礼二氏の訳がすばらしいこともあって、非常に面白い。興味深い点を引用していく。 トクヴィルは、アリストクラシーからデモクラシーへ進むのが歴史的必然だとみなしており、デモクラシー…

トクヴィル著『アメリカのデモクラシー』を読む

ここのところ、ちゃんとした記事を書こうとしすぎている気がしてきた。 もっと気楽に思いつきを書いて、発想をふくらませるエネルギーを得ることがブログの目的だったのだから、しばらくお気楽モードの記事に戻すことにします。 ということで、現在アメリカ…

土居健郎著『臨床精神医学の方法』を読む

まったく予期していなかった土居健郎先生の新刊である。タイトルは『臨床精神医学の方法』。2009年1月30日、岩崎学術出版社刊。ここ10年ほどの講演録を中心に集めた一冊である。出版を知るなりすぐ注文し、土居先生の新刊を手にできる幸せをかみしめつつ読み…

 グレゴリ・ジルボーグGregory Zilboorg著『医学的心理学史』を読む

「外来統合失調症ambulatory schizophrenia」の概念で知られるジルボークGregory Zilboorgが著した『医学的心理学史』A History of Medical Psychology(みすず書房)を読んだ。原書は1941年。神谷美恵子氏による日本語版は1958年出版。 ジルボーグは1890年キ…

「坂元薫先生、ついにブレイクか」と色めき立つ

またもやアクセス数激増でびっくり。今回はなぜだか「坂元薫」先生のキーワードでアクセスする人がめちゃくちゃ多い。どうなってるのか? ついに、坂元先生のベタなネタが世間にブレイクしたのか! と一瞬色めき立ったが、そうではないらしい。 どうやら昨夜…

ザビーナ・シュピールラインの人生とユング(3)

前回のエントリーはこちら。 その後、アメリカ行きの船上で、フロイト、ユング、フェレンツィは互いに夢分析を行うが、そこでユングとフロイトの関係に軋みが生じ始めた。フロイトはユングの行う解釈に対して、「私自身を他人に分析させることはできない、私…

ザビーナ・シュピールラインの人生とユング(2)

さて、シュピールラインとユングの関係について。今回もカロテヌート著『秘密のシンメトリー―ユング・シュピールライン・フロイト』などを参照しつつまとめていく。(特に断りのない引用はこの本から) シュピールラインは1904年にユングの治療を受け始めてい…

村上春樹の「イェルサレム賞」受賞スピーチについて

Jerusalem Post誌に受賞スピーチの一部が、記事の中に埋もれる形で切れ切れに掲載されているが、この断片を池田信夫氏がまとめている。とても重要な内容なので、転載しておく。 本当に励まされる内容だ。昨年11月に『海辺のカフカ』を読んだ際のエントリーで…

ザビーナ・シュピールラインの人生とユング

この間、『精神分析療法の道』を素材にして禁欲原則について考えている。過去のエントリーはこちら。 フロイトS.Freud著『精神分析療法の道』を読む - Gabbardの演習林−心理療法・精神医療の雑記帳 フロイトS.Freud著『精神分析療法の道』を読む(2) - Gabbar…

アクセス激増でびびる日曜日

昨日からアクセス数が激増してびっくり。老舗ブログ、ピュアリーさんの『発展途上臨床さいころじすとの航跡blog版 (精神分析 臨床心理 心理療法)』と裕さんの『裕's Object Relational World』でご紹介いただいたのがきっかけのようですが、いままではいわゆ…

『鶴光のオールナイトニッポン』復活に寄せて

思わずエントリー。 『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン』が一夜限りの復活と。 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090211-00000000-oric-ent 私は小学校までは関西地方で育ったが、中学からは遠く離れた地方の学校に入学し、そこの寮で生活した。慣れ親…

佐藤俊夫著『倫理学』を読む

なぜだか佐藤俊夫著『倫理学』を読んだ。東京大学出版会、1960年刊。 倫理学の初学者向けのテキストとして刊行された本のようだが、先日レビューを書いた永井均氏の本『倫理とは何か』とくらべると、いかにも教科書然とした一冊だ。永井氏の本が読者に内…

フロイトS.Freud著『精神分析療法の道』を読む(3)

フロイト著『精神分析療法の道』(人文書院刊『フロイト著作集 第9巻 技法・症例篇』所収)について、さらに続ける。 これまでのエントリーは、以下に。 『精神分析療法の道』を読む(1) 『精神分析療法の道』を読む(2) 今回はこの論文でフロイトが示し…

クラインVS美輪明宏

今日は子どもたちを保育園へ送迎中、「どっちが強い」という話題になった。たとえば「ヒグマとホッキョクグマはどっちが強い」、「マリオとルイージはどっちが強い」といったテーマについておしゃべりに興じた。そんな中、「和式トイレと洋式トイレ、どっち…

フロイトS.Freud著『精神分析療法の道』を読む(2)

さらにフロイト『精神分析療法の道』を読んでいく。今日は、フェレンツィの能動(積極)技法についてフロイトが言及をはじめたところから。 フロイトは、彼が許容する「分析家の能動性」として次の二つをあげる。 抑圧されているものの意識化と抵抗の発見の…

フロイトS.Freud著『精神分析療法の道』を読む

すみません、フロイトの技法に関するマニアックな話題が続きます。ちょっと興がのってきたので、しばらく続ける予定。 さて『想起、反復、徹底操作』の次に重要な技法論文である、1919年の『精神分析療法の道』も見ていく。小此木啓吾訳、1983年刊の人文書院…

フロイトS. Freud著『想起・反復・徹底操作』を読む(3)

一昨日から、フロイトの『想起、反復、徹底操作』(人文書院『フロイト著作集 第6巻 自我論・不安本能論』所収)をとりあげている。1914年のこの論文でフロイトが考えていた治療図式は、患者が行動として反復している内的体験を、言語化して意識化すればその…

フロイトS. Freud著『想起・反復・徹底操作』を読む(2)

昨日要約した『想起・反復・徹底操作』(フロイト著作集 第6巻 自我論・不安本能論所収)について、気づいたことなど、断片的にだがまとめておく まず訳文に「操作」という言葉が多用されていることについて。この言葉からは、患者の主体性を尊重せず、治療者…

フロイトSigmund Freud著『想起・反復・徹底操作』を読む

自律autonomy、あるいは「患者の主体性」について考える中で、フロイトの考えを確認したくなり、『想起・反復・徹底操作』Erinnern,Wiederhoken undDurcharbeiten 1914を再読。今回は『フロイト著作集 第6巻 自我論・不安本能論 (6)』人文書院(1969年初版)…